にっっっっぶ
魔族、いいやつだったよ……と、歴史書を書く機会があったら記しておこう。
それはともかく、ドラゴン討伐ついでに滅ぼされる魔族とか冗談にもならないので止めてやるか。
魔族は人間の『敵』だが、ヴィナとやり取りした感じ、まったく話が通じないわけじゃなさそうだしな。
それに、微妙に魔族間の政争に巻き込まれてはいるが、まだ実害はないからな。
「いやさっき魔族を惨殺したばかりじゃないっすか」
ジトーッとした目を向けてくるラタトスクだった。あれは攻撃魔法を放ってきたのだから『敵』だろう? しかもちゃんとお話した結果として快く情報を吐いてくれたし。うんうん、やはり魔族とは話が通じるな。
「魔王」
魔王じゃないやい。
というか神話でやらかしまくって現在進行形でもやらかしまくっているラタトスクにとやかく言われたくないわ。
ま、ラタトスクが妄言を吐くのはいつものこととして。
「まぁまぁ、シルシュ。まずは海鮮を楽しんでみようじゃないか」
『うむ? まぁ刺身と醤油も楽しみではあるが……醤油はあるのか?』
「たぶんあるんじゃないか?」
ちらり、と視線をリースに向ける俺。
委細承知とばかりに空間収納から醤油の瓶を取り出すリース。以心伝心。
「こ、これが熟年夫婦の力……負けるわけには……」
あわわ、と震えるメイスだった。夫婦ではないと思うが?
「えぇ、『まだ』夫婦ではありませんわね」
ドヤッとした顔をメイスに向けるリースだった。やっぱりお気に入りらしい。
二人が仲良くしているのを尻目に、醤油瓶を受け取る。ちなみに前世みたいな透明の瓶ではなく、白い陶器だな。明治時代とかに海外輸出に使ったものっぽい感じ。
ちょっとだけ手のひらに出して、舐めてみる。……うん、醤油だな。ちょっと個性が強いが、十分醤油の範疇だ。
「では取り急ぎ一匹捌いてしまいましょう」
リースが魔力の糸を海中へと伸ばし――しばらくして、鯛っぽい魚を一本釣りした。え? なにそれ便利。
さらには。一本釣りされて空中を舞う鯛に魔力の糸を巻き付け――おお! 綺麗な三枚おろしに! どうやったのかはまるで分からんが凄いぞリース!
「ドヤッ」
胸を張りながら自分で『ドヤッ』と口にするリースだった。おもしれー女。
「しかしリースも料理ができたんだなぁ」
「無論ですわ。家を出てアークと暮らしていくなら手料理もできなければなりませんし。この数年で花嫁修業は完璧に習得してありますわ」
「…………」
もしや、リースって愛が重い系?
「「おっそ」」
メイスとラタトスクからダブルツッコミされてしまった……。




