是非も無し
とりあえず、半月状にくぼんだ地形のうち、魔の森の奥へと繋がる道に一番近い地点に桟橋を作ってしまうことにする。
もちろん俺一人で出来るはずもないので、ここは魔法の出番だな。
「ん。任せて」
ミラが海に向けて手を向けると、なにやら海面が大きく揺れ動き始めた。まさか波を操って……? いやいくら何でも無理だろうし、それをする意味もない。
しばらく様子を見守っていると――海面が盛り上がった。
まさか妖怪海坊主か? と警戒しつつ剣の柄に手を伸ばす俺。
しかし、海面から現れたのは妖怪ではなく、巨大なゴーレムだった。大きさとしてはこの前巨大化したクーマくらいか。
その巨大ゴーレムはゆっくりと海の中を進み――桟橋の予定地に倒れ込んだ。
たぶん、こんな感じにゴーレムを積み重ねていき、海面の上に出た桟橋を作るつもりなのだと思う。それはいいのだが……。
「ぬぉおおおお!?」
海の反対側に向けて駆け出す俺。見上げるほど巨大なゴーレムが『ばしゃーん!』と海に倒れたせいで、大波が陸地に流れ込んできたのだ。
「わぁあああ!?」
「きゃああぁあ!?」
誰かが波をもろに被ったっぽいが、こういうときの枠はたぶんシャルロットとアリスだろう。
100メートルほど全力疾走すると、幸いにして濡れることなく波から逃れることができた。
「うぅ、びしょびしょだよぉ~」
「うぅ、びちゃびちゃですぅ~」
やはりというかなんというか。濡れ鼠になっているシャルロットとアリスだった。途中で転けたのか泥まみれだな。
ちなみに泥汚れに関しては浄化で綺麗にし、炎魔法と風魔法の組み合わせでドライヤーみたいなことをして服を乾かしていた。便利なことだ。
「あー、ミラ。もうちょっとゆっくり『ばしゃーん』とできないか?」
「ん。制御が難しい」
「そんなものか」
術者本人が言うのだからそうなのだろう。細かい制御が面倒くさいだけではない。はずだ。
「……ふっふっふっ!」
「ならば! 私たちが何とかしましょう!」
ビショビショ状態から回復し、謎のカッコイイポーズを決めるシャルロットとアリスだった。おもしれー女たち。
二人は協力して土魔法を行使。桟橋予定地の周辺に堤防――いや、土盛りをしたのだった。高さとしては人の膝上程度だが、さっきの波を防ぐくらいなら十分だろう。
「おお! 凄いじゃないか二人とも!」
「へへーん!」
「そうでしょう、そうでしょう!」
「あぁ! まさか大失敗せずに成功するだなんて!」
「「…………」」
あれ? なんか二人から冷たい目を向けられてしまったぞ? なぜだ……?




