ちょろ
まぁ、あのクズはどうでもいいとして。
「いいのでしょうか……侯爵が魔族と交流があるなど……」
難しい顔をするメイスだった。真面目だなー。
「とはいえ今の俺たちに出来ることはない。告発するにしても、国の実権は王太子が握っているからな。時間の無駄だ」
「それはそうですが……」
「今重要なのは魔族がヴィナを取り戻しに来るかどうかだな」
あるいは暗殺者を差し向けてくるか。とは、口にしない俺。なにせ本人が目の前にいるからな。人数が多いので発言しているのは俺とメイス、リーナだけだが、他の人たちも集まって話は聞いているのだ。
「一応確認なんだが、ヴィナは魔族の国に戻る気はあるか?」
『……いえ、私はもう覚悟を決めました。――アーク様のように』
「うん?」
俺がいつどんな覚悟を決めたの? そしていつの間に『アーク様』呼びに?
色々ツッコミたかったが、それをする前にリースが発言してしまう。
「魔族が攻めてくるなら迎撃すればいいのです。まずは港を作ってしまいましょう」
「だが、そのうち行き来する船を襲われる可能性もあるぞ?」
「民間船を襲撃したのなら、もはや戦争です。お望み通り滅ぼしてしまえば良いのです」
わぁ過激。
「簡単に言うけどなぁ。魔族だぞ? 個人の戦闘能力は人間を圧倒しているし、魔族の国とやらにどれだけの数が住んでいるかも分からない」
「問題ありませんわ。こういうときは、シルシュ様にご助力を賜ればいいのです」
にっこりとシルシュを見るリース。
そんなリースの様子が気に入ったのかシルシュがニヤリとした笑みを浮かべた。
『ほぅ? いきなり我に助力を求めるとは傲慢な。無論、それ相応の対価は払えるのだろうな?』
「えぇ、もちろん。――我が領地は竜列国とも交流がありまして。『しょーゆ』も主な輸入品となっております」
『ほう!?』
そういや海まで来たのってシルシュが醤油で刺身を食いたいからだったっけ。よく覚えているものだ。
「さらには我が領地でも少量ながら『しょーゆ』の生産も行っておりまして。お望みであればシルシュ様好みの味を作ることも可能ですわ」
『ほうほう?』
「しかし、魔族によって船が危険にさらされては『しょーゆ』をこちらまで持ってくることも困難となりましょう」
『……ふっ、なるほど。そういうことなら魔族の国を焼き払うことも視野に入れるか』
いや、チョロくね? このドラゴン、チョロくね? チョロゴン……。
そして醤油のために滅ぼされる魔族の国って前代未聞じゃないだろうか? あまりにも可哀想すぎる。いやまだ滅ぼされるとは限らないが……こっちに手出ししなければ大丈夫だが……こういうときって最悪の方向に転がっていくんだよな。俺、知ってる。




