仲良し
ヴィナから怖がられているが、まぁそれはしょうがないか。とりあえずヴィナの嫁入り宣言は皆が忘れたっぽいので良しとしよう。
あとはどうするかなぁ。ヴィナがよければしばらく魔の森で暮らしてもらうとして……。
とりあえず、こういう状況に強そうなメイスとリースを中心として会議開始だ。
「どうするよ?」
「そうですね。当初はこのまま港を作ってしまう予定でしたが」
「やはり『国』を建てるなら良港は絶対条件ですものね」
「だが、このまま魔族が攻めてくるなら港どころじゃないぞ?」
「港に出入りする船が狙われるかもしれませんしね」
「ですが、攻めてくるとは限らないのでは?」
「というと?」
リースに目を向けると、彼女はまるで先生のように人差し指を立てた。
「あの魔族がやって来たのはあくまで船と連絡が付かなくなったからでしょう? しょせんは偵察。わざわざこちらに戦力を向けてくるとは考えがたいですが」
「しかしなぁ、ヴィナはこちらにいるんだぜ?」
「たしかに王族の娘というのは『旗印』として優秀ですが……人間界に売り飛ばしても問題ない程度と判断されたのでしょう? ここも人間界なのですし、ヴィナ抹殺のために戦力を向けるとも考えがたいかと」
「ふーん、そんなものか?」
俺が納得しかけているとメイスが軽く手を上げた。
「しかし、王族の娘というのはやはり旗印として最適です。売り飛ばした先の人間と『交渉』が纏まっていたならば、それ以外の場所で好き勝手に動かれるのはあちらとしても見過ごせないのでは?」
ここで言う交渉とは、ほらあれだ。奴隷紋を刻んで逆らえないようにするとか。地下牢に監禁してお楽しみのために使うとか。そういう約束をして売り飛ばしたってところなのだろう。あの男ならやっても不思議じゃない。
「ところで気になったのですが」
メイスが眼鏡を押し上げた。
「アーク様はあの魔族を尋問したのですよね? 人間側の協力者の名前は割れたのですか?」
「あぁ、そういえば話してなかったか」
面倒くさいことになったんだよなーっとため息をつきつつ、隠すようなことでもないので答えてしまう。
「うちの実家」
「……え?」
「ガルフォード侯爵家」
「……はい?」
「いや、もう追い出されたから元実家か。でも騎士団的には俺もまだ『アーク・ガルフォード』なんだよな。いやその騎士団も辞めたのだから完全に無関係なのか」
「つまり……アーク様が黒幕?」
「なんでやねん」
完全に無関係って言うとりますやん。思わず関西弁(?)で突っ込んでしまう俺だった。メイスってこういうときになぁ。意外とポンコツになるんだよなぁ。
「まぁそれはどーでもいいとして」
「いやいや!? よくありませんが!?」
「でもなぁ」
リースに顔を向ける俺。
「まぁ、あの男ですしねぇ……」
うんうんと頷き合う俺とリースだった。是非も無し。
「ど、どんな人間なんですか……?」
「ははは、メイス、気にするな」
「そうですわ。アークとは絶縁状態なのですからメイス様の義父になることもありませんし。国を興したあとにすり寄ってきたなら不穏分子として首を刎ねればいいのです」
ねー、っと顔を見合わせる俺とリースだった。仲良し。
「くうっ、アーク様と積み重ねた時間の差が……」
俺とリースの仲の良さを悔しがるメイスだった。『不穏分子として首刎ね』発言は完全スルーらしい。おもしれー女。




