くず
魔族の男は何とも誇り高く、純心で、最後まで魔族としての誇りを失わなかった。
ま、それはそれとして。
「うーん……」
魔族から聞き出した情報を改めて見直し、唸ってしまう俺だった。
面倒くさい。
とても面倒くさい。
まず、ヴィナが今代の魔王と政略結婚させられそうだったのは事実らしい。ちなみに魔王は人間で言うところの中年。ヴィナの年齢は見た目通り13歳だそうだ。
犯罪者ぁ……。
ロリコォン……。
とは思うのだが、魔族と人間では法律が違うかもしれないしなぁ。いやでもいくら政略結婚でも13歳はなぁ。ヤバいよなぁ。やはり人間と魔族は分かり合えない存在らしい。
「ん」
ジトーッとした目で俺を見つめるミラさんだった。いやまぁあなたも割とお若いですけどね? なんか俺の『お嫁さん』らしいですけどね? それはほら、ミラさんの精神の成熟を加味しましてね? それに俺から口説いたり手を出したことはないし? セーフじゃないっすか?
「クズ」
けっ、と吐き捨てられてしまった。おかしい……最近ミラ様が容赦ない……いや最初から割と容赦なかったか……?
ミラとはあとでじっくり話し合うとして。
この魔族の上司は魔王国の反魔王派筆頭で、公爵の地位にあるらしい。ちなみに人間界で公爵と言えば王弟の血筋だったり広大な領地を治めているもんだが……魔族においてどのくらい偉いのかはまだ分からない。
まぁでも自動翻訳が『公爵』と訳したのだから、たぶん人間界で最も近い地位が公爵なのだと思う。
魔王というのは当代で一番強い者が就任するらしい。
で、その魔王に反発しているのが公爵であり、魔王の政治的な後ろ盾をなくすためにヴィラを誘拐させ、人間界に売り払ったのだとか。
俺の中の評価だと、自分の権力強化のために13歳の少女と結婚する魔王は悪で、13歳の少女を売り払った公爵が巨悪ってところか。
「んで? ヴィラはどうしたいんだ?」
尋問跡は綺麗さっぱり証拠隠滅――じゃなかった、お掃除したので女性陣も戻ってきた。その中にいたヴィラに問いかける。
『わ、わ、わ、わたしは……』
なにやら俺から視線を逸らしつつ、どもりまくるヴィラだった。さっきまでの不遜な態度はどこ行った?
「これは、アレじゃないっすか? 魔族を拷問したアークさんを怖がっている展開」
によによとした笑みを向けてくるラタトスクだった。楽しそうだなぁおい?
「怖がるって言ってもなぁ? ちゃんと気を使って退避させたじゃないか。あと、拷問じゃなくて尋問だ。ごくごく平和的な尋問だ」
俺たちは情報を得られたし、魔族も早く楽になれた。うんうん、平和的だな。
「魔王」
「なんでだよ?」
「そういうところっすねー。あと、退避させる前に魔族の腹を刺してたじゃないっすか。そのあと魔族が姿を消し、魔族しか知らないはずの情報を得ていたとなれば、ねぇ?」
なるほどつまり誤解されているってことか。こんなにも心優しい騎士なのに。
「心優しい騎士(女性限定)」
へっ、という顔をするラタトスクだった。女性以外にも優しいじゃねぇか。キングゴブリンとか。
「失血死するまで剣で切り刻もうとするのは優しいとは言わないっすねー」
やれやれと肩をすくめるラタトスクだった。




