清々しい
まぞくは こんらん している
こういうときは、何かと頼りになるメイス様だな。
「お任せください」
きらりーんと眼鏡を煌めかせるメイス様だった。かっこいい。
メイスは穏やかな笑みを浮かべながら魔族の少女に近づいていった。ちょっと不用心なように見えるが、少し離れた場所に師匠が待機しているので安心だ。呪文詠唱が終わる前に魔族の少女の首は飛ぶだろう。あと、俺が剣を投げてもいいし。
一応剣の柄に手を添えながら様子を見守っていると、メイスと魔族の少女は比較的落ち着いた様子で会話を始めた。
「つまり、ハーレムです」
なんかメイス様が妙なことを口走らなかった?
『……古代竜も?』
「嫁です」
『神も?』
「嫁です」
『邪神も?』
「嫁です」
メイス様? なんかテキトーに返事しすぎじゃありません? いやメイス様を信じるべきか……いやいやメイスって意外とポンコツだからなぁ。
というかシルシュを古代竜枠に収めると、神格者枠でフレズかラタトスクが嫁になってしまうんだが……。
「ふっふっふっ、いつの間にやらボクも嫁認定されたいたようです――ねぇ!?」
ノータイムでラタトスクの首を狙ったのだが、ギリギリのところで回避された。うんうん、やはりせっかく首を刎ねるのだからある程度難易度がなければな。
「うっわ魔王。魔王がいる……まぁ! アークさん流の照れ隠しとして受け取っておきましょう!」
このリス、ポジティブすぎねぇ?
『あ、アーク――様!』
お? 魔族の少女がこっち来たな。なんかもう清水の舞台からフライハイする直前みたいな顔をしている。
『わ、私もアーク様の嫁に! してくださいませんか!』
なーんか、「誰かから脅されてんの?」と疑いたくなるほど顔を青くしながらの提案だった。
「うん、無理」
『な、なぜ!?』
「なぜって……。嫁が多すぎる」
『うわぁ……』
くずぅ、とか。きちくぅ、みたいな顔で見られてしまった。今の時点で多すぎるから断る。真っ当な考えじゃねぇか。
「そもそもあれだけ嫁を増やす人間は『真っ当』じゃないっすよ?」
そもそも俺の方から嫁を増やしたことはないし。
「――うわ、クズ。鬼畜」
ラタトスクに真顔でドン引きされてしまった。あのラタトスクに真顔でドン引きされてしまった。そんなにヤバい発言だった?
なぜ真っ当なことを言っているのにドン引きされるのか。首をかしげつつ、ここは最初に魔族の少女を説得しなければますます俺の立場が危うくなる。気がする。
「あー、お嬢ちゃん」
『ヴィナです』
「ヴィナか。いい名前だな。ヴィナは何でまた俺と結婚したいだなんて言い出したんだ?」
『もちろん、これだけの戦力があれば魔王と四天王にも勝てるからです!』
「……えーっと?」
『私には力が足りないため、魔王に嫁がなければなりませんでした! ですがアーク様の助力があれば魔王も撃退できます! ――結婚後は他のお嫁さんたちと仲良くしてもらって、私のことは忘れていただいて構いませんから!』
「…………」
いっそ清々しいくらいの偽装結婚だなぁ。逆に感心してしまう俺だった。




