気軽な女
「で? どうするよ?」
うーんうーんとうなされる魔族の少女を見下ろしながら、嫁(?)たちの意見を聞く俺だった。
「また嫁を増やすのかい?」
と、シャルロット。なんでやねん。
「まぁ、アーク様ですしね」
と、メイス。なんでやねん。
「ん」
ミラさん、その「ん」はどういう意味ですか? メイスへの同意?
「最近の魔族は弱くなったのぉ」
と、シルシュ。そりゃ神話時代と比べればなぁ。
「戦ってもつまらなそうだな」
と、師匠。この少女、最上級攻撃魔法を放てるんですけど? まぁそんな強くなかったけど。
「……外交問題……魔族との全面戦争……」
今後の展開を予想したのかソフィーが頭を抱えていた。まぁ師匠とシルシュがいるし、何とかなるんじゃね?
「脳筋」
メイド長のベラさんからの冷たい視線だった。もしかして心読みました?
「だ、大丈夫です! アーク様ならきっと!」
きらっきらとした目を向けてくるアリスだった。なんか信仰(?)がまた増してない?
≪なっ!≫
ナッちゃんに『さすがアーク! 私が認めただけのことはある! よっ! 女たらし!』みたいなことを言われてしまった。いやいや≪なっ!≫に意味を込めすぎだろ……。
皆の反応はともかくとして。別に嫁にするつもりなんてないし、攻撃魔法を放たれたくらいで報復するつもりもない。
「もう面倒くさいからこのまま解放すればいいんじゃないか? 魔法封じの枷を外せば勝手に国に帰るだろ」
なにせあれだけの魔法を使えるのだ。道中の危機もないはず。
俺の提案にラタトスクが首を横に振った。
「いやいや話はそう簡単じゃありませんって」
「というと?」
「この娘は魔王の敵対勢力によって誘拐され、売り飛ばされまして」
「なんでそんなことまで知っているんだよ?」
「そりゃあまぁ、ボクなので!」
「あ、そう……」
「もうちょっと興味持ってくれてもいいんじゃありません!?」
「だってラタトスクだしなぁ……」
「……ふっ、このボクをここまでぞんざいに扱いとは……おもしれー男……」
それはもういいから。
「それでですね。魔族との協力関係にある人間のところに売り飛ばされる予定だったのですが……船がいつまでも到着しなければ疑われるでしょう。そうなれば魔族側にも連絡が行き、追っ手が放たれるはずです」
「ふーん」
「さらには魔族の国に戻っても無事に安全な場所にたどり着けるとは限りません。なにせ魔族の国は権力闘争の最中ですから。重要なキーマンならぬキーガールなこの子はすぐに争いに巻き込まれるでしょう」
「ほーん」
「つまり最善手はこの子を魔族の国まで送り届けることですよ! アークさんが!」
「へーん」
「……なんか興味なさげですね」
「興味がないというか……ずいぶんとこの少女に肩入れしてないか?」
「ぎくっ」
いやぎくって。口に出したぞコイツ。
「べ、別に! この少女に恩を売りつつ嫁に迎えたり、魔族の国に乗り込んで有力者共をボコれば、アークさんが正真正銘の『魔王』になるなぁだなんて考えてませんよ!?」
べらべらと目論見を自白するラタトスクだった。コイツの場合は本気でそう考えているかもしれないし、他に狙いがあるから表向きそう口にしているかもしれないのがなぁ。どっちか分からないんだよなぁ。やっぱり首を刎ねておくか。
「ボクの首はそんな気軽に刎ねていいものじゃありませんからね!?」
中々の謙遜をするラタトスクだった。お前ほど気軽に刎ねられる首はそうそうないというのに。




