〇〇騎士
「あーあ……どうしたものかな……」
船の上から海を見下ろす俺。
海上には気を失ってプカプカと浮かぶ魔族の少女と、クラウ・ソラス(人間の姿)。
意識があればロープでも投げて引き上げてやれるんだが、気を失っているからなぁ。というか魔族はともかく聖剣が気絶するってどうなの?
お、そうだ。
「リースの糸で引き上げられないか?」
「無理ですわね。巻き付けることはできますが、引っ張ったら輪切りですわ」
「……そこはちょっと手加減できないの?」
「できませんわ」
相手の頭に触れて思考を読み取るなんて器用なことはできるのに……。とは口にしない俺だった。処世術。
「……ん?」
なにやら神剣レバンティンが震えたな。どうした?
ふんふん? 弓に変形して? 矢の後ろにロープを括り付けろと? よく分からんがやってみるか。
「いえ、なぜ剣と会話できますの?」
「神剣だから喋れるんじゃないか?」
「わたくしには聞こえませんが?」
「そりゃあれだ、きっと所有者と心通わせるってヤツだな」
「……まぁ、アークですしね」
なぜが深々とため息をつくリースだった。
レバンティンの指示に従い、ロープを括り付けた矢を海に向けて放つ。すると、矢は海に落ちたあと常識外の起動を開始。まずは魔族の少女をグルグル巻きにしてしまった。
そのまま矢はフックになるような位置で止まったので、引き上げてみる。ちなみに師匠に鍛えられているので人一人引き上げるくらいなら楽勝だ。
『ぐぇええぇええ……』
腹部が圧迫されているのか妙な声を出す少女だが、まぁしばらく我慢してもらおう。
少女を引き上げたあと、今度はクラウ・ソラスを引っ張り上げる。本体が剣のおかげか意外と軽かったな。
ふう、と一仕事押した俺は額の汗を拭う。そんなことをしている間にリースは少女に再び猿ぐつわを噛ませていた。そつがないぜ。
さて。とりあえず少女から話を聞くかと考えていると、
「アーク君!」
お? 上空から聞き慣れた声が。
空を見上げると、プカプカと浮かびながらこちらへやって来るシャルロットとミラの姿が。
……え? お前さんたちって飛べたの? 飛行魔法使えるの? さすが銀髪持ち……いやシルシュの血のおかげでできるようになった可能性もあるか?
すげーっと素直に感心していると二人は甲板上に無事着地。
そして、ものすごい顔で魔族の少女を見た。最上級攻撃魔法を放とうとした『敵』に向けた目――とは、ちょっと違うな。
今の魔族の少女。
ロープで簀巻き&猿ぐつわ。
「……変態だ」
「ん。変態騎士」
「なんでだよ」
ビシッとツッコミを入れてしまう俺だった。お前さんたちだって飛んでる間にこっちのやり取りを見ていたはずじゃねーか。




