閑話 そのころのアリスさん・2
乱舞する攻撃魔法。
そして、それを易々と切り伏せていくアーク。
それなりに魔法を勉強してきたアリスとしては正気とは思えない光景だ。
「……あのぉ、攻撃魔法って斬れるものでしたっけ?」
近くにいたミラに問いかけてしまうアリス。
「ん。普通は無理」
「で、ですよね?」
「でも、アークは普通じゃない」
「…………」
この人たちのアークに対する謎の信頼はなんなのだろう、と首をかしげてしまうアリスだった。
いやアリスもあの状況から救い出してくれたアークのことを神のように慕ってはいるものの、だからといって攻撃魔法をぶっ放す魔族を『引っかけた』判定はしないし、剣で攻撃魔法を叩っ切ることを当然だと受け入れることはできないのだが……。
「えーっと、魔法を斬るって、どういう理屈なんですか?」
「可能性としては『神剣』が効果を発揮しているかも」
「あ、あー、そういえば神剣ですものね」
そうかそうか、それなら納得だと一安心するアリス。
「でも、アークなら普通の剣でも斬れると思う」
「……どういった理屈で?」
「理屈を超えた先にいるのがアークという男」
「あ、さいですか……」
この人も案外アレだなーっと諦めるアリスだった。口数が少なく落ち着いているとはいえ、判断力も冷静とは限らないらしい、と。
アークは魔法を斬れる。もう深く考えず納得することにしたアリスだった。
「――む」
と、ミラが深刻そうな声を上げた。
「どうしました?」
「……最上級攻撃魔法」
「へぁ!?」
戦記物くらいでしか聞かない単語に思わず変な声を上げてしまうアリスだった。
最上級攻撃魔法。
本来であれば魔導師団が総力を結集し、一度放てればいいというレベルの魔法だ。その威力は(味方の防御魔法がなければ)騎士団の一つや二つ消し飛ぶという。そんな最上級攻撃魔法を、たった二人に向けて放つだなんて……。
パクパクと口を開けるアリス。
分かってる、とばかりにミラが頷いた。
「ん。たった一人で最上級攻撃魔法を起動するとはさすが魔族。私も出来なくはないけど、あれだけの魔法を連発したあとにやるとは凄い」
「いやそうじゃなくてですね!? アーク様たちの心配をですね!? というかミラ様も起動できるんですか!?」
慌てふためくアリスに向けて、ミラはゆっくりと頷いてみせた。
「――ん。アークなら平気」
「いや平気って言われましても……」
「そもそも、剣が届くような近距離で長々と呪文詠唱をするなんて自殺行為。あの魔族、魔力は凄くても実戦経験はない」
「剣は……届かないのでは?」
だってあの魔族は空を飛んでいるんですよ? そう突っ込もうとしたアリスは、見た。剣をぶん投げ、最上級攻撃魔法を暴発させ、魔族を海に落としたアークの姿を。
…………。
……なるほどこういう感じか。深く深く納得するアリスだった。




