閑話 その頃のアリスさん
アークとリースがシルシュにぶん投げられたあと。
船へと向かって飛翔(?)する二人を、アリスは海岸で見守っていた。
「……あら?」
あのままだと船に落下するなー、大丈夫かなーと心配していたアリスだが、不思議なことが起こった。二人の落下速度がゆっくりになったのだ。
「――おや、あれがリース君の闇魔法かな?」
「闇魔法使いとして有名ですからね」
と、平然とした様子でやり取りするシャルロットとメイス。
はて、とアリスは首をかしげる。闇魔法はその性質から忌み嫌われていて、リースにも悪い噂が立っていなかったかと。たしか王太子たちがそんなことを言っていたはず。
まぁアリスは高位貴族のご令嬢とはほとんど関わりがなかったし、シャルロットやメイスが平気な顔をしているのだからしょせんは噂だったのかと判断する。
……実際のところは二人が特別寛容なだけであり、リースの『友人』以外は距離を取っているのだが……そんな貴族社会の事情をアリスは知らなかった。
とにかく、船に落下したアークとリースの様子が気になったアリスは身体強化の応用で視力を強化。船の上の様子を観察することにした。
ちなみに戦闘職でもない人間が身体強化で視力を強化するのは中々難しいのだが、アリスは平然とこなしていた。『ヒロイン』として他の令嬢から忌み嫌われていたアリスは自分の身を自分で守らなければならなかったし、それに加えて『聖女候補』として真面目に鍛錬をしていたからだ。
その姿を見ていたからこそ、ライバルであるエリザベスもアリスを許していたのだが……。それもまたアリスは知らなかった。
「……え、えぇー……?」
強化された視力で甲板の騒動を目にしたアリスはそんな声を上げてしまった。船員たちの首が次々に飛んでいったのだ。なんだかもうホラー映画を見ている気分になるアリス。遠くから見ているだけなのでまだ平気だが、もし近くだったら具合が悪くなっていたことだろう。
「海賊かな?」
「そうですね。職業は『海賊』となっていますね」
アリスのように甲板の上を見つめながらそんなやり取りをするシャルロットとメイス。二人もまた身体強化で視力を強化したうえ、メイスに至っては鑑定眼まで使っているようだ。
(ここの人たち、スペック高すぎません……? こ、このままではやはり埋もれてしまいます……)
自分のハイスペックさを棚に上げてそんな不安に駆られるアリスだった。
「……あ」
シャルロットのそんな声が聞こえたアリスは『目立ちに目立ってアーク様をメロメロ大作戦』の立案を中断し、船に意識を戻した。
「うわぁ……」
バチバチと。甲板上で雷魔法が炸裂していた。規模からしておそらく初級だが、それにしたって人間ではあり得ないほどの頻度で連発されている。
「横に長い耳に、小麦色の肌か……。あの少女、魔族かな?」
「エルフに似ていながらも明らかに異なった外見。『闇堕ちしたエルフ』と表現される魔族である可能性が高いですね」
「……今度は魔族を引っかけたかぁ」
「女たらしの本領発揮ですね……」
うんうんと頷き合うシャルロットとメイスだった。
(え、えー? 攻撃魔法を連発されてますけど、女をたらした判定なんですか……?)
シャルロットたちが厳しいのか、あるいはアークがそれだけやらかしてきたのか。ちょっと判断できないアリスだった。




