これはひどい
ま、とりあえず首を刎ねておくか。
「いやいやいや」
リースが何か言おうとしたが、魔族の少女が攻撃魔法を放ってきたので中断された。
もはや何度も見た、初級雷魔法だ。
その魔法を、剣で両断する。
「いやいや、いやいやいや」
なんか壊れたレコードみたいに『いやいや』を繰り返すリースだった。船酔い?
そんなことをしているうちにもう一回飛んできたので、もう一回叩き切る。
「いやいや! なぜ魔法を斬れますの!?」
「斬れるからだが?」
「ぶん殴りますわよ!?」
お前さん、メッチャ鍛えているからご遠慮願いたいなぁ……。
「いいかリース、魔法は不思議な現象だが、効果は物理的だ。――つまり、物理的に斬れる」
「あたまおかしい」
「なんでだよ? 単純明快じゃねぇか」
「単純なのはあなたの頭ですわ」
ひどい言われようだった。
ま、リースはちょっと頑固というか頭が硬いところがあるからな。考え方を変えるには少し時間が掛かるだろう。
というわけで、今回はさっさと首を刎ねてしまうことにする。
またまた飛んできた雷を切り伏せ、魔族の少女に向けて一歩踏み出す。
「首ぃー、よこせぇー」
『ぎゃああぁああああぁあああっ!?』
涙目で絶叫しながら攻撃魔法を連発してくる少女だった。だが狙いは甘いので必要なものだけ斬り、ズンズンと近づいていく。
『ぎゃああああぁあああぁああああああっ!?』
「きゃあぁああぁあああああぁああああっ!?」
お? 少女だけでなくリースまで絶叫しているな。後ろを振り向くと滅茶苦茶に飛んでくる攻撃魔法を神回避するリースの姿が。……ふっ、また腕を上げたようだな……。
俺が満足してから前を向くと――魔族の少女が宙に浮かんだ。おぉ、飛行魔法ってヤツか。俺もそろそろ習得したいが、魔力がなぁ。師匠なら魔力なしでも飛べるか?
『――神々よ、今こそ我が矛となろう』
突如として少女の周りに魔力が渦巻き始めた。呪文詠唱か?
『――神威象りたるは天の光。森羅万象焼き尽くしたるは天上の業火』
「あれは最上級攻撃魔法ですわね。本来なら対軍勢級の魔法。個人で扱えるとはさすが魔族ですわね」
リースが珍しく青い顔をしているな。それだけヤバいってことか。
『――雷鳴は世界を揺らし、閃光は地平を駆け抜ける』
「どうしますのアーク? アレが直撃すればこの船ごと消滅しますわよ?」
大型商船が消滅かぁ。ド派手なことで。
『――恵みの光。神罰の化身。善たる者には言祝ぎを。悪たる者に潰滅を』
少女が天に向けて両手を掲げ、その手の先に膨大な魔力が形となって現れた。雷の球体、とでも言おうか?
『神の力なる雷光で以て、世界を害する邪悪を討たん!」
お、そろそろ呪文詠唱も終わりそうだな。
というわけで俺はこういうときに使いやすい――じゃなかった、頼りになる聖剣クラウ・ソラウを抜き、少女が掲げる雷の球体に向けてぶん投げたのだった。
『なんでこんなときばかりぃいいいぃいい!?』
『――神雷よ、世界をぉおぉおおおっ!?』
飛翔したクラウ・ソラウは雷の球体に直撃。大爆発したのだった。
「これはひどい」
なぜか額に手をやるリースだった。




