閑話 大人たち
若い連中がわちゃわちゃとしたやり取りをしている中。
冒険者ギルドのマスター・ギルスが空間の裂け目を通り抜けると、見知った顔を見つけた。ギルドとも何かと取引のある商会の長、ガルだ。
ガルもギルスに気づいたようで、気安く片手をあげてきた。
「おう、ギルス。お前さんも巻き込まれたか」
「なんだお前もいるのか。……巻き込まれたってのは?」
「そりゃお前、アークの坊主にだよ」
「……あぁ、そうだな。また巻き込まれたな」
昔からそうだった。
侯爵家の長男だというのに冒険者になりたいとギルドにやって来て。とんでもない速さで冒険者ランクを駆け上がり、これはもうすぐSランクになれるなというところで近衛騎士団に引き抜かれたのだ。
あのときから近衛騎士団と冒険者ギルドは険悪であるし、ギルスとライラもまた険悪。……当事者であるアークにまるで自覚がないのが何ともムカつくギルスだ。
そのあとも王女殿下関連で他国に喧嘩を売ったり、騎士団を半壊させたり、冒険者ギルドにトラブルを持ち込み続けたりと……とにかく、騒動の中心にいるのがアークという男なのだ。自覚がないのがムカつく以下略。
「ギルスが来たなら話が早ぇ。冒険者ギルド、今のうちに食い込んだ方がいいぜ?」
「食い込む? そりゃあ魔の森の魔物からは貴重な素材が取れるからな。当然――」
「――ここには、ダンジョンがある」
「なに?」
「踏破したのはアーク。ダンジョンマスターもアークだ」
「おいおい、そりゃあ……」
唖然とするギルスだ。
人間がダンジョンマスターになるというのは過去にも例があるし、記録にも残されている。もちろん神話や軍記物のように創作が多分に含まれる可能性もあるが……それでも無視できない記述ばかりが目を引くのだ。
いわく、ダンジョンマスターは好きな魔物を発生させることができる。
いわく、ダンジョンマスターはダンジョンを好きに組み替えることができる。
いわく、ダンジョンマスターは世界の終わりを制御することができる。
特に重要なのは三つ目だ。
大地を埋め尽くすほどの魔物が発生する世界の終わりを自在に操れるなら、ダンジョン攻略で最も危ぶまれる魔物の暴走を事前に防ぐことができるし――逆に、魔物の津波を自在に起こすことができるのだ。
たとえば。
ドラゴンが出ても無数の魔物をぶつけて対抗することができるし、他国の軍勢が攻め込んできても魔物の大軍で押しつぶすことができる。
鉄壁の守り。
最強の軍事力。
それを同時に有するのがダンジョンマスターなのだ。
「…………。……いや、まだ信じられねぇな。アークはとんでもないヤツだが、いくらなんでもダンジョンを攻略してダンジョンマスターになるだなんて……」
「ま、信じられねぇのも無理はねぇ。俺だって悪い夢を見ているんじゃないかって疑っているんだからな。……ま、たとえ夢でも、良い夢であることには変わらねぇ。存分に楽しませてもらおうじゃねぇか」
「……そうだな。そうするか」
これから何が起こっても驚かないよう覚悟を決めよう。固く拳を握りしめるギルスだった。
まぁ、その覚悟も無駄に終わるのだが。




