チョロ
「むー、これじゃあボクがおかしいみたいじゃないか……」
不満げなシャルロットだった。まぁ実際、気持ちは分かるんだよな。結果的にはハッピーエンドになりそうだが、そうじゃなかったら貴族としての未来が潰え、魔の森で魔物に食い殺されるエンドを迎えていたのだから。
「……キミね、何とも思わなかったのかい?」
じっとーっとした目をアリスに向けるシャルロットだった。おぉ、ちょっと悪役令嬢っぽいぞ。
対するアリスはとても小動物っぽい。
「そ、そんなこと言われましても……アーク様が一緒だったのだから、大丈夫に決まってますし……」
え? なんか俺への評価が高すぎない? アリスに対してそんな高評価をもらうようなコトしたっけ?
「あと、万が一の時のために近衛騎士団長さんも魔の森に派遣しましたし……」
おぉ、そこまで考えていたのか? ミラから『頭と間が壊滅的に悪い』と評されていたとは思えない頭脳プレイだ。
「……ん。後付け。無茶振りされてテキトーに答えただけ」
ミラの容赦ない指摘だった。こういう指摘が入っちゃうところも『間が悪い』のかねぇ?
ちなみにミラのツッコミは小声というか、俺に対してのものだったのでシャルロットには聞こえなかったようだ。
「ぬぐぐ……」
いや『ぬぐぐ』って。実際口にしている人初めて見たわ。
そんなシャルロットの様子に勝利を確信したのか、
「ふっ、勝ちました」
胸を張って勝ち誇るアリス。いやお前さぁ……。
「いいかアリス。お前さんに悪気がなかったとしてもだ。実際にお前さんをきっかけにして多くの人に迷惑を掛けてしまったことを忘れちゃいけないし、勝ち誇るのなんてもってのほかだ」
「う゛、ガチのお説教が……。ま、真に申し訳ありませんでした。悪気はなかったんです……それだけは本当です……」
素直に謝るアリスだった。空気は読めないが悪い子ではないらしい。空気は読めないが。
アリスの返答と、反省した態度にシャルロットも思うところがあったようだ。
「……う~ん、まぁ、そういうことなら……。それに、王太子やら高位貴族の息子たちから言い寄られても、男爵令嬢じゃ拒否することもできないだろうからねぇ。仕方ないか……」
渋々ながら納得するシャルロットだった。おもしれー女だけど悪い子じゃないんだよな。おもしれー女だけど。
「そう! 私悪くないですよね!? あっちが勝手に言い寄ってきただけで――あ痛ぁ!?」
即座に調子に乗ったアリスの脳天に空手チョップを落とす俺だった。もちろん空手チョップ(弱)である。
「ぬぐおぉおお……」
(弱)だというのに、大げさに頭を抑えてしゃがみ込むアリスだった。
「ふ、ふふふ……DV気質ですか……でも分かりますよ……私からの愛で改心する展開ですよね……?」
なんかまたアホなことを言っていた。そういう思考だとガチの暴力男から逃げられずにズルズルと泥沼に引きずり込まれていくぞー? 『あの人は私がいないと駄目だから……それに本当は優しいのよ?』と庇っちゃうような女になるぞー?
「な、なんですかそのリアリティのある忠告は……!?」
ガクガクと震えるアリスだった。ちょっとあり得るかもという自覚はあるらしい。まぁチョロそうだものな。
「チョロ!?」
愕然とするアリスだった。いやこの一日だけでだいぶチョロいぞ?




