エンカウント
「「うっわ、なんだこれ……」」
声を揃えて俺が切り裂いた空間を観察するブリッシュさんとギルスさんだった。
「これで魔の森に繋がったっすよ」
「いや、アークよ。これ……なんなのだ?」
ブリッシュさんの疑問にはこう答えるしかない。
「師匠がやっていたのを真似したら、できました」
「……あぁ、ライラか。ならば仕方ないか」
深々とため息をつくブリッシュさんだった。ちなみに俺なら真似できるということに関してのツッコミはなかった。
「――ほぅ、たしかに向こう側には森っぽいものが見えるな」
感心したような声を上げたギルスさんが俺の背中をバンバンと叩いてきた。痛い。
「いいじゃねぇか! これならデカい獲物も簡単に王都まで運び込める! 流通の革命が起こるぜ!」
なんか商会長みたいなことを言いだしたな。まぁ冒険者ギルドの長ともなればそういうことも考えなきゃいけないのか。
とりあえず。危険はないことを証明するためにまずは俺が切り裂いた空間を通ろうとして――
「いい加減離れなさい」
俺の腕に抱きついたまま空間を通ろうとしたアリスがソフィーに引っぺがされていた。ソフィー、ちょっとアリスに対して容赦がないな。……まぁ、あれだけ国を混乱に陥れたのだから当然か。むしろよく手打ちにしないものだ。
そうして俺はまず一人で魔の森に戻ったのだが。
「――おや、アーク君。丁度いいところに」
魔の森も当然夜中。だというのに起きていたシャルロットは――なぜか、盆踊りを踊っていた。いやほんとになんで?
「ふふふ、ボクの美しい踊りに心奪わせてしまったかな?」
「心奪われたというか、関心を奪われたというか……」
ちょっと現実を受け入れない俺はシャルロットから視線を外し、周囲を見渡してみた。
おそらくは魔の森から切り出した丸太を組んだキャンプファイヤー。その周りではゴブリンキングたちが盆踊り、っぽいものを踊っていた。いや、だからほんとになんで?
「ほら、これからボクたちは共に建国をする仲間となったじゃないか」
「なんで建国することで話が進んでいるんだ?」
「仲間となるなら、あれだよ。やはり祭り。お祭りをして仲を深めるのが定番じゃないか」
俺のツッコミは完全無視して定番とやらを語るシャルロットだった。そんな定番、こっちの世界でも前の世界でも聞いたことないんだがなぁ。
「それは百歩譲って理解するとして……なんで盆踊りなんだよ? キャンプファイヤーを囲んでいるんだからせめてフォークダンスとか」
「ふふん、アーク君が思いつくことを、このボクが思いつかないとでも思ったのかな?」
「うん」
「うん!? 思いつくよ!? ボクはジーニアスな公爵令嬢なんだからね!」
自分で自分を『ジーニアス』と言い出し始めたし。いや前から言っていたっけ?
「当然ボクもお約束としてフォークダンスを思いついたさ! でも、キングオークだとこちらの背が足りないし、ゴブリンだと逆に小さすぎる。人間とゴブリンに分かれて踊ってしまっては本末転倒だし、ここはフリースタイルにしようと思ったわけさ!」
盆踊りをフリースタイル扱いするな。
まぁ、しかし、話を聞いてみればシャルロットもシャルロットなりに考えていたらしい。そもそもの大前提としてキャンプファイヤーじゃなくてもいいだろうとか、祭りをするにしても俺たちが帰ってきてからにしろよとかツッコミどころはまだまだあるのだが……。まぁ今日は疲れたから丸っと放り投げてしまおう。
とりあえず夜も遅いし、詳しい報告は明日にするかーギルスさんたちはどこで寝てもらうかなーっと考えていると、
「――あのー、そろそろいいですか?」
切り裂いた空間からアリスが顔を出した。おっと、盆踊りシャルロットが衝撃的すぎて道を塞いだまま突っ立っていたか。
と、顔を出したアリスの存在に、シャルロットが気づいた。
「あーっ! 『ヒロイン』アリス!?」
シャルロットは遠慮なくアリスを指差し、
「ぎゃー!? 『悪役令嬢』シャルロット様ぁ!?」
美少女らしくない叫び声を上げるアリスだった。
どうやらまだまだ眠れないらしい。
新作投稿しました~。いつもの感じです
魔石喰らいの最強聖女~悲劇の運命は『力』でなぎ倒します!
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