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【受賞・書籍化】悪役騎士、俺。 ~悪役令嬢を助けたら、なぜか国を建てることになった件~  作者: 九條葉月


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閑話 冒険者ギルド・2


 人を素手で殴り殺せそうな筋肉。

 いかにもガラの悪そうなスキンヘッド。

 頬からアゴにかけて深く刻まれた傷痕。


 見た目からすると『脳筋』なのだが、そんな外見に反するように瞳には理知的な光が宿っている。


 そんな冒険者ギルドのマスター・ギルスに対してブリッシュが気安げに片手をあげてみせた。


「よぉギルス。久しいな」


「お前さんが第一騎士団長になってからは、仕事じゃなきゃ会わなくなったからな。で? わざわざ騎士甲冑なんで着込んでどうしたよ? まさかあの王太子(アホ)が戦争でも決断したか?」


「あぁ、この格好はな……話すと長くなるので省略するが、王太子(あのアホ)にクビにされてな」


「……なんだって?」


「俺が、第一騎士団長を、クビになったんだ」


「……マジかよ。王太子(あのアホ)、そこまでアホだったのかよ……」


 ギルスは絶望したように天を仰ぎ、話を盗み聞きしていた冒険者たちも騒ぎ出した。


「おいおい、ライラだけじゃなくてブリッシュまでクビにしたって?」


「アークも行方不明って話だしな」


「こりゃ、いよいよヤバいなこの国は」


「強制的に徴兵される前に逃げるか」


「今ならどの国が景気いいかねぇ?」


「どこも良くはねぇな。神聖アルベニア帝国が暴れ回っているせいでどの国も疲弊している」


「けっ、どっちにしろ戦場でしか稼げねぇのかよ」


 冒険者は有用なスキルを持っている場合が多いし、魔物を相手に命のやり取りをしてきた者たちだ。普通に兵を募るより役に立つので傭兵として高い需要がある。


 冒険者たちは明日をも知れない生活をしているし、儲かるなら戦場で人を殺すことも躊躇(ためら)わない者も多い。が、王太子(あのアホ)に付き従って無駄死にをする趣味はないのだ。


 今後の算段を立て始めた冒険者たち。噂が広まれば王都からほとんどの冒険者がいなくなってしまうかもしれない。


 それを何とか止めたいギルスではあるが、力ずくでやろうとすると強く反発するのが冒険者という人種だ。何かうまい手を考えなければならないが……。


「いや、それは後にするか。ブリッシュよぉ、冒険者になるってのは本気なのか? 元第一騎士団長ともなれば他の国からも引く手あまただろう?」


「あぁ、アークに誘われたのでな。しばらくは魔の森で魔物狩りをしようと考えているのだ」


「……魔の森だぁ?」


「おう。すでにアークとライラが拠点を作って活動しているらしい」


「…………」


 ライラとアーク。

 この国一番の騎士と、二番目の騎士。

 そしてさらに三番目の腕を持つとされるブリッシュまで魔の森に?


 今までは誰かが王城を守らなければならないので三人同時に投入されることはなかったが……。三人が魔の森に集まるなら、魔の森にいるというドラゴンですら倒せるだろう。


 その意味を、周りにいた冒険者たちも理解したようだ。


「おいおい、ライラとアークだと?」


「それにブリッシュまで加われば、無敵じゃねぇか」


「魔の森の強力な魔物も倒されるな」


「……そうなりゃ、俺たちも魔の森に入って狩りができる」


「この20年誰も手を出していねぇからな。獲物はたくさんいるだろう」


「……隣国に移動する前に、ちょっと様子を見ていくか」


「そうだな。儲かるなら留まってもいいんだしな」


「たしか魔の森の近くには冒険者ギルドもあったはず」


「ありゃあとっくの昔に廃止されたが……村はまだ残っているはずだ」


「……ギルドマスター(ギルマス)、どうします?」


「昔あったんなら一から支所を建てるより楽でしょう?」


「俺たちも協力しますぜ?」


 冒険者たちから期待の目を向けられ、ギルスは面倒くさそうに頭を掻いた。


「ったく、しょうがねぇな。冒険者ギルド支所を設立するにしても、まずは調査をしなきゃいけねぇからな。――俺が直接見極めよう」





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