閑話 冒険者ギルド
その頃。
元第一騎士団長のブリッシュは冒険者ギルドに足を運んでいた。
彼もギルドには何人か知り合いがいるので気後れすることはないが……。問題は今の彼の格好だ。
首から下を覆い隠す、全身鎧。いわゆるフルプレート。
ブリッシュはアークに対する警備態勢を敷いていたときクビになったので、騎士甲冑を着込んだままだったのだ。
身体強化があるし、戦場では甲冑を着たまま過ごすので疲れたということはないが、さすがに冒険者の中に騎士甲冑の男が現れたら目立つだろう。
他国との戦争では冒険者を傭兵として雇うこともあるので、そのための交渉で冒険者ギルドにやって来たことは何度もある。が、その時は騎士服を着用するので甲冑姿ではないのだ。
できることならなるべく目立ちたくはないのだが……。
(いや、ためらっていても仕方ないか)
何よりあの建物では王女殿下もお待ちなのだ。手続きに時間が掛かって遅れるならとにかく、『ギルドに入る勇気がありませんでした』という理由で遅れることなど許されない。
意を決したブリッシュがギルドの中に入る。一階部分は受付と酒場になっていて、酒場部分では多くの冒険者が騒がしく酒を飲み交わしていたのだが……ブリッシュの姿を見た途端静かになった。
まぁ、明らかに仕事中の騎士がギルドにやって来たのだから、目立つような真似をしたくはないのだろう。……普通なら。
だが、酒場にはそんな『普通』じゃない男たちもいたようで。
「おうおう! 騎士様が何の用でぃ!?」
「また誰かに冤罪をなすりつけようってのか!?」
いかにも素行の悪そうな男二人が立ち上がり、ブリッシュに詰め寄ってきた。酒臭いのでだいぶ酔っているのだろう。
かつてのブリッシュであれば『無礼者!』とぶん殴っているところだが、今は騎士団長を辞めて冒険者になる身分。つまりはこの男たちも先輩ということになる。先輩なら穏便に事を済ませようと決めたブリッシュだ。
「ははは、なに、今の私は騎士ではない一般人だ。誰かを捕まえるつもりはないから安心したまえ」
「あぁん? 一般人だぁ?」
「なんだコイツ? 騎士をクビにでもなったか?」
「はっはぁ、それで冒険者になろうってか! 舐められたもんだな!」
「そんな重い装備で森やダンジョンに入るつもりかよ! バカじゃねぇのか!」
「いいか、冒険者にとって最も重要なのはいかに体力を消耗せずに目的地までたどり着き、無事に戻ってくるかってことだ!」
「分かったらそのバカみたいな鎧を脱いでから出直してくるんだな!」
「…………」
思いっきりバカにされるブリッシュだが、指摘される内容は事実だったり的確だったりするので何も言えないのだった。……もう少し言い方に気をつけてくれないか、とは思うが。
新しい職場で舐められるわけにもいかないし、ブリッシュとしてはここでケンカをして力を誇示するのもありかと思っていたのだが……。指摘内容が真っ当すぎてどうしようもないブリッシュであった。ここで自分からケンカをふっかけられない辺り、生真面目な男である。
いやしかし、このままこの冒険者たちの助言を聞き続けるのもありか? と、さらなる生真面目さを発揮していると、
「――あぁん? 騒がしいと思ったら珍しい顔がいるじゃねぇか。ブリッシュ、こんな時間に、こんな格好でどうしたよ?」
ブリッシュの顔見知り。王都の冒険者ギルドマスターのギルスが受付の奥から顔を出した。
新作投稿しました~。いつもの感じです
魔石喰らいの最強聖女~悲劇の運命は『力でなぎ倒します!』
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