全方位無差別
「――あ、アーク様! 助けてください!」
シルシュとソフィーにガン詰めされて限界に達したのか、アリスが俺に助けを求めてきた。
「とぅ!」
謎のかけ声を上げながらアリスが前転し、シルシュとソフィーによる包囲から逃れたうえでこちらに駆け寄ってくる。
ちなみにアリスの運動神経は普通で、シルシュが本気なら逃がすことはなかった程度の動きだ。まぁつまり、シルシュもマジで責め立てていたわけではなかったのだろう。
いやドラゴンらしい覇気を漂わせる女性から詰められたら、たとえ本気じゃなかろうと怖いだろうがな。実際アリスは涙目になっているし。
アリスは俺の隣まで駆けてきて、そのまま俺の二の腕に抱きついてきた。おっと腕に柔らかい感触が。しかし、ここで鼻の下を伸ばすと酷い目に遭うと経験上知っているので無表情をキープだ。
と、なぜか抱きついてきた側のアリスが目を丸くして驚いていた。
「おぉ! 私がこんな近くにいるのに表情を崩さず! さすがはアーク様です! これが真のイケメン!」
変なところで感心するアリスだった。自分に対する自信がものすごいことになっているが、普段から全方位無自覚魅了爆撃をしていればそんな感じにもなるか。
感動に打ち震えるアリス。そのせいで、建物内の空気が一気に冷え込んだことに気づいていないようだ。
『……やはり今のうちにガツンとやっておくか?』
シルシュ、お前さんが『ガツン』とやると大抵の生物が消滅するからな?
「……やはりギロチン」
ソフィー。権力者がそんな簡単にギロチンとか口にしちゃいけません。……アリスの場合、客観的に見るとギロチン不可避なのが何とも。
俺ですら空気が重くなったのを察しているのだが、そんなことにはぜーんぜん気づく様子のないアリスだった。あー、こうやって空気を読めなかった結果さらに悪化していった感じか……。
「アーク様って前世の記憶持ってますよね!? 説明に協力してくださいよ!?」
おっと、盛大に俺を巻き込んできたな?
おもしれー女というか天然トラブルメイカーなアリスはますます俺に抱きついてきて、他の女性陣にまくし立てた。
「わ、私はあくまでアーク様と前世についての話し合いをしたかっただけですよ!」
うんうん、まぁそれは察してはいたが。そんな大声で説明したら二人きりになろうとした意味がねぇだろうが。
「……ま、まぁ、アーク様とでしたら特に目的もなく二人きりになってもいいですけど……」
わぁ。すごい。まるで空気を読んでいない発言だ。ちなみに今のアリスを第三者が見ると『前世の記憶があるとか言っている電波系が、さんざん国を混乱に貶めたというのに、追い詰められて性懲りもなく男を口説いてる』となる。うん、前世なら『ざまぁ』されるの確定だな。
もういっそのことヒロインじゃなくて悪役令嬢に改名すればいいんじゃないか? ……いや悪役令嬢が主役の物語だとテンプレな『悪役ヒロイン』か?
ちなみに。
今ここにいる女性陣の中で、俺が前世の記憶持ちだと知らないのはソフィーとベラさんだけだと思う。いやフレズがどっちかは不明だが、神格者であるシルシュとラタトスクは知っているので、たぶん分かっていると思う。
で。周りの反応からその事実を察したらしいソフィーは――ぷっくーっと頬を膨らませた。かわいい。
「……わたしくだけ、何も知らされていないみたいですわね……」
頬を膨らませたまま睨んでくるソフィーだった。いや、これはソフィーを除け者にしたわけじゃなくて、ソフィーとベラさん以外の女性陣が濃いというか特殊というかおもしれー女というか……。




