男たらし
「さて、ブリッシュさんが帰ってきたら魔の森に戻るんだが」
帰り道については心配いらない。俺が空間を切り裂いてもいいし、シルシュに頼んで集団転移をしてもいいからだ。……来たときと同じようにラタトスクに頼む? う~ん……。
「ボクの扱いが酷すぎる件」
日頃の行いなので是非もない。
「じゃあしょうがないですね!」
はいはい、テンプレテンプレ。
「ボクの抗議をテンプレ扱いするの、やめてくれません?」
実際テンプレだしなぁ。
「おっとそうだ。こちらのソフィー――じゃなくて、王女殿下も魔の森に着いてくるそうだ。まぁ物見遊山だな」
「「「「「……えー?」」」」」
一斉に変な顔をする女性陣だった。え? 何その反応?
「まさか、本気で勘違いしているとは……」
ベラさん? なぜそんな呆れた顔を?
額に手をやったベラさんだが、気を取り直したようにソフィーへと視線を移す。
「……殿下。いかがなされるのです?」
「……問題ありませんわ。向こうに行ってしまえばこちらのものです。この男、女に押されると弱いので」
「……なるほど、押しかけ妻というものですか。もはや帰るところなどないと泣いてしまえば……」
小声で何事かをやり取りするソフィーとベラさんだった。……なんだろう? ここはちゃんと意思疎通をしておかないと後々酷いことになると直感が告げているな。俺の勘は良く当たるのだ。
どういうことだ?
と、問いかける直前、おずおずとした様子でアリスが右手を挙げた。
「あ、あの~、私はどうなるのでしょうか?」
あー、シルシュに抱えられて無理やり連れてこられただけだものな。普通に考えれば王宮に帰ってもらうのだが……。
「ギロチン」
と、冗談を言ったのはソフィー。ははは、まったくハードなジョークを……。ジョークだよな?
「ぴぃいぃいぃいっ!?」
ガクガクと震えるアリスに、しかしソフィーは容赦しなかった。
「王族に対する不敬罪。内乱罪を含む、数々の事件に対する首謀容疑。このままこの国にいれば間違いなく斬首ですね。地下牢で散々嬲り者にされたあとのギロチンです」
「ひ、ひぃいいぃいいぃいいっ!?」
もはや腰が抜けてしまっているアリス。彼女からすればソフィーは恐ろしくてたまらないだろうが……ソフィーはソフィーでちゃんと優しさがあるんだよな。『このままこの国にいれば』と教えてあげているのだし。
問題は、アリスがその優しさに気づいていないっぽいことか。
あとはまぁ少女一人で国外逃亡してもどうにもならないというのもある。いや『魅了』スキルがあるから平気か? ……逆にトラブルを引き寄せそうだな。
「あ、あ、アーク様! 助けてください!」
腰が抜けたまま這うようにこちらへ近づき、俺の手を両手で掴むアリスだった。
……お? なんか建物の中の空気がぴりついたような? 気のせいか?
「おう、もちろんだ。助けてやるから心配するな。悪いやつじゃなさそうだしな」
「あ、ありがとうございます! ……その、アーク様は、もしかして……」
「うん?」
「……いえ、その、アーク様と大事な話をしたくてですね……どこか、二人きりになれる場所で……いかがでしょう?」
「あー」
たぶん、前世関連の話だよな?
いやしかし、俺はアリスが前世の知識持ちだと察しているが、アリスの方はどうなんだろうな? 気づかれるような言動はしていないと思うが。
……シャルロットによると俺って原作ゲームとはまるで違う行動をしているっぽいし、気づいた可能性は高いか?
俺としては何の問題もない。こういう情報は共有しておいた方がいいからな。
しかし、問題は。これ、何も知らない人からすると「またアリスが男を口説こうとしている!」って見えることなんだよな。
『……はっはっはっ』
「うふふふふ」
ガッシリと。
アリスの首根っこを掴むシルシュとソフィーだった。うわぁ、神代竜と王女殿下とか。実力と権力のダブルブロック(?)だな。
そのままズルズルと部屋の片隅にまで引きずられていくアリスだった。うん、まぁ、説明がんばれ。
『……おやおや、あのシルシュがここまでデレるとは』
「さすがはアークさんっすね~」
ニヤニヤとした顔を向けてくるフレズとラタトスクだった。ちょっとレバンティンの試し切りしてみようかな?




