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【受賞・書籍化】悪役騎士、俺。 ~悪役令嬢を助けたら、なぜか国を建てることになった件~  作者: 九條葉月


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女たらし

「あ、時間切れっす」


 しゅわしゅわと。『ボン、キュッ、ボン』な美人からいつものちんちくりんに戻るラタトスクだった。残念――でもないな。そもそもラタトスクはそういう対象にはならないし。


「泣いていいっすか!?」


 わーぎゃーと喚くラタトスクをテキトーにあしらっていると、皆を待たせている建物に到着した。


 ドアを開け、部屋の中を見渡してみるが……うん、全員いるな。シルシュにフレズ、ソフィーにアリス。そして元第一騎士団長のブリッシュさんに、メイド長のベラさん。……あれ、ベラさんっていたっけ?


 疑問に思いつつベラさんに微笑みかける俺だ。


「ベラさん。また会えて嬉しいです」


 ここで「なんでいるんですか?」と問うのは悪手だ。「いてはいけないのですか?」と不機嫌になるかもしれないからな。まずは予想外の再会を喜ぶ。これがコツである。


『手慣れておるな』

『女たらしですね』

『これは経験豊富そうな』

「さすがアーク」

「これが噂の……」


 シルシュ、フレズ、ラタトスク、ソフィー、アリスから「うっわぁ……」という目を向けられてしまった。というかアリスさん? 「これが噂の」ってどういうことっすか?


 いや、ここで藪を突くと蛇が出るな。いやドラゴンも出るか。というわけで俺は唯一普通に会話できそうなブリッシュさんに視線を移したのだった。


「ブリッシュさん。お疲れ様でした」


「うむ、良い剣は手に入ったか?」


 ブリッシュさんも騎士なので、あの短期間で剣ができるとは考えていないのだろう。つまり既製品を買ってきたのだと思っていると。


 そんなブリッシュさんに、俺は空間収納(ストレージ)から炎の神剣・レバンティンを取り出してみせた。


「な、なんだその剣は……? 尋常ではない『気』を放っているが……」


 ここは東洋ではないが、『神気』みたいな感じで気という概念もあるのだ。


『ほぉ、これは珍しい』

『えぇ、これは珍しい』


 興味深そうに寄ってきたのはシルシュとフレズ。神話系なのでレバンティンも知っているのだろう。たぶん。


『アーク。これは取り扱いを間違えると世界が燃え尽きるぞ?』


 あ、やっぱりそういう系の剣なん?


『まぁ、真王様なら大丈夫じゃないでしょうか?』


 フレズからの信頼が厚すぎる件。俺、何かやったっけ?


『……ふむ、それもそうか。それに神格者が三人もおるのじゃから、いざというときも止めればいいだけじゃしの』


 神格者。三人。つまりはシルシュ、フレズ、ラタトスクのことだろう。どうやらシルシュにはラタトスクの正体もバレているらしい。


『いや、アークも入れれば四人か』


 いきなり寝言をほざくシルシュだった。いや神話の剣を使えるのだから神格者という理屈か?


 ま、それはとにかくとしてだ。


「じゃあ、ブリッシュさん。交代です」


「うむ。そうするか」


 俺と軽く拳を当ててから外に出て行くブリッシュさんだった。これから冒険者ギルドへ行って冒険者登録をしてくるのだ。


 本来なら冒険者としての先輩である俺が同行するべきだとは思う。が、俺は今お尋ね者みたいな感じだからな。わざわざ出歩いて騎士団に見つかるリスクを冒す必要もない。


 ちなみに。

 もう日も暮れているのだが、冒険者ギルドってのは酒場も兼ねているし、遠くまで狩りに行った冒険者が危険な野宿を避け、夜遅くに帰ってくる場合もある。だからこそこんな時間でも開いているのが普通なのだ。


 新規登録者となればギルドの演習場で実力を測るなんてこともしなくちゃいけないのだが……たぶん大丈夫じゃないだろうか。なにせブリッシュさんは元第一騎士団長で腕は確か。というか、ギルドの人間もブリッシュさんの顔くらい知っているだろう。


 あ、でもそうなると騎士団長をクビになったことを説明しなきゃいけないのか?


 しかし、騎士が冒険者になっちゃいけないという決まりはないし、俺だって冒険者として登録している。


 だが、さすがに(元)第一騎士団長ともなれば冒険者ギルド側も「はいそうですか」と登録するわけにもいかないかもしれないし……。


(ま、ちょっと時間が掛かることくらいは覚悟しておくか)


 そんなことを考える俺だった。



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