第4章プロローグ 勝ったな
――王都。
王国の第二騎士団長・ベイスは上機嫌であった。
クビになった第一騎士団長・ブリッシュ。生真面目なヤツの代わりに、ベイスの息子ベイラスが第一騎士団長に選ばれたためだ。
ちなみに。ベイラスとは王太子の側近であり、あの集団婚約破棄事件の当事者。つまりは実力ではなく縁故採用であった。そうでなければ貴族学園を卒業したばかりの、まだ騎士団にすら所属していなかった人間が騎士団長になれるはずがない。
さらにちなむと、あのとき婚約破棄されたベイラスの元婚約者こそがメイスであった。
「ふん、あの暗い眼鏡女を婚約破棄させてから息子にも運が回ってきたな。やはり夫の運気を下げる女は駄目だ!」
無論そんなことはないのだが、悪いことは全て他人のせいにしてきたベイスにとってはそれが事実であった。どうしようもない。
第一騎士団長・ベイラス。
第二騎士団長・ベイス。
まさしくウィスチャード侯爵家の天下と言っても過言ではない状況であった。
あとは『縁故採用』だと噂する連中を黙らせるために何か戦果を上げればいいのだが……。そちらに関してもベイスは心配していなかった。なにせ近々第一・第二騎士団共同で『魔王』討伐を行うのだから。
しかも、魔王の正体は近衛騎士団のアーク・ガルフォードだという。
勝ったな、とベイスはほくそ笑む。いくらアークが強かろうと、個人が騎士団を相手にして勝てるはずがない。そんなものは考えるまでもない常識なのだ。
……その常識が通じないのがアークなのだが、どうやらベイスの認識ではそうではないらしい。
とにかく。『魔王』を討伐したとなれば王太子殿下は勇者であり、ベイスとベイラスは勇者に率いられた勇者パーティーの一員となる。たとえ相手がただの騎士であろうと、勇者の元に複数の騎士団があろうと、『魔王を討伐した勇者と勇者パーティー』という事実は変わらないのだ。
勇者にして王。
そんな王に仕えるベイスとベイラス。地位も名誉も絶頂に達することだろう。
「やはり、運が回ってきたな」
こらえきれずに高笑いするベイスであった。




