第3章 エピローグ あっちゃー……
――王城。
この国の王太子にして、暫定的な王・カルスは怒り狂っていた。
「ええい! まだアリスは見つからないのか!?」
第一騎士団が警備をしていたというのに、あっさりと攫われてしまった憐れなアリス。今ごろは酷い目に遭っているのではないかとカルスは気が気でない。
まぁ、ある意味では酷い目に遭っていると言えなくもないかもしれないが。少なくとも王城でチヤホヤされるよりは平穏に過ごせるだろう。
「一体誰だ!? 誰がアリスを攫ったのだ!?」
「は、はい……第一騎士団によるとアーク・ガルフォードではないかと」
「あーく?」
どこかで聞いたことがあるが、どこだったかと頭を悩ませるカルス。
おいおいマジかよ、と思いながらも側近が説明する。
「我が国で二番目の腕を持つ騎士で、計画の邪魔になると目されていた男です。さらに言えば、我々が追放した罪人を魔の森まで捨てに行った騎士となります」
「あぁ」
そういえばそんな名前だったなと思い出すカルス。まぁしかし、この優秀な私が覚えていないのだから大したことはないのだろうと判断する。
「まったく! またアリスの魅力に狂った男が出たようだな!」
アリスの『魅了』によって正気を失った男をカルスは多く見て来た。だからこそ、その『アーク』とやらもそうなのだろうとため息をつく。
実際のところ、その無自覚な『魅了』にカルス本人も狂わされていたのだが……本人は分かっていないようだ。
さらに言えば、『魅了』で狂わされなくとも残念な頭だったのだが。
「アークか! どこにいるかすぐに探させろ! 王都の門を全て封鎖しても構わん!」
檄を飛ばしたカルスの元に、一つの報告が舞い込んできた。
「殿下。魔の森近くの村に住む若者がやって来まして。なんでも、魔の森に『魔王』が出たとか……」
元々は『ドラゴンが出たときのために』あの村からの使いを騎士団長ライラに取り次ぐということにしてあったのだが、ライラが出奔したので別のルートを使い、こうして王太子の元まで情報が上がってきたのだろう。
本来であれば一村人の発言が王太子の元へ届くことなど奇跡に他ならない。
しかし、そんな奇跡を、カルスは蔑ろにする。
「魔王が出ただと? だからどうした。そんなもの、勇者とやらに任せればいいではないか」
自国領に『魔王』が出たとなればもっと慌てふためくべきなのだが、カルスは今それどころではなかった。一刻も早くアリスをアークの魔の手から救い出さなければならないのだから。
そう、物語において、お姫様を救い出す勇者のように。
「お言葉ではございますが……その『魔王』が、アーク・ガルフォードではないかとの情報が」
「なに? ……よし、詳しい話を聞こう」
その村人とやらを呼び出したカルスはさっそく『魔王』について問い糾した。
村の若者・ニレは興奮した様子で村の窮状を訴え始めた。
「俺たちの村がゴブリンに襲われたんです! そう! あのアークという男が率いるゴブリンたちに! アイツこそが魔王に違いありません! すぐに騎士団を寄越してください!」
なんとも粗雑な言葉遣いだが、平民なのだからこの程度かとカルスは許してやることにした。平民の中で育ちながらあれだけ上品になったアリスはやはり凡人とは違うのだなと彼女に対する評価を上げながら。
「――む! そうか!」
まるで天啓を得たかのようにカルスが閃いた。
魔王であるアークと、ヤツに攫われたアリス。
ここで自分がアリスを助け出したら、まさしく『勇者』ではないかと。
(勇者であり、王! 素晴らしい! この私に相応しい称号だ!)
ご満悦なカルスは側近であり第二騎士団長の息子でもある男に強く命じた。
「騎士団を集めろ! 魔王討伐だ!」
しばらく更新お休みします




