ラタトスク?
レバンティンの他に、『良い鉄』とやらで予備の剣を打ってもらうことにした。
それはすぐにはできないとのとこなので、ガルさんの商会を通じて魔の森へと届けてくれるそうだ。
そういやガルさんもまだ魔の森に留まっているが、商会をほったらかしでいいのかねぇ? いや商人が行商に出れば一ヶ月二ヶ月店を開けるのは普通なんだが、あの人は今商会長なんだよなぁ。
ま、他人の心配をしてもしょうがないか。
今はそれより他に解決する撃問題がある。
オッサンの店をあとにして。俺とラタトスクは並んで夜の街を歩いていた。王都には街灯が整備されているが、さすがに真夜中では点灯していないので月明かりを頼りに歩く。
まぁ、俺は見なくても周囲の状況を『感じる』ことができるし、ラタトスクも問題なさそうに歩いているんだけどな。
「いや~、さすがは真王様! まさかこうも簡単にレバンティンの主として認められるとは! これは勇者が聖剣に認められるより凄いことなんですよ!」
「へー、そうかよ」
「む、薄い反応ですね。もう少し喜んだら――」
油断しきったラタトスクの首。そこ目掛けてレバンティンを振るう。
曲刀による抜刀術。
さらには、本気の一撃。
だというのにラタトスクの首を落とすことはできず――首に当たる直前、何かによって刃は防がれてしまった。
「……防御結界か」
「はい。さすがのボクでも首を落とされると痛いので」
「痛いで済むのかよ。バケモノだなぁ」
「そういうアークさんこそ。本気で首を落としに掛かりましたね? まさかボクが反応できないとは思わなかったですよ。――ボク、何かしましたかね?」
「何もしてないと思っているんなら脳みそ取り替えた方がいいな。今までどんだけ迷惑を掛けられたか……。それに、未だに正体を隠したままの存在なんて、危なっかしくて隣に置いておけねぇよ」
「おや? ボクは何の変哲もないリスですが?」
「ないない」
「……一応お尋ねしますが、どうしてボクをお疑いに?」
「なんかそう感じた」
「感じた、って……」
「あとはそうだなぁ。お前さん、横文字を使うじゃねぇか。しかもこの世界にないはずの言葉ばかりを。『ストップ』だの『プライド』だの」
たとえばティーカップなどの言葉は普通に使われているが、ラタトスクはそういう言葉以外を普通に使っていたのだ。
「この世界で、そういう言葉を使えるのは俺やシャルロットみたいな転生者か――シルシュやフレズといった神格者だけだ」
「おぉ、ボクの使った言葉まで覚えていてくださるとは……これはもう愛なのではっ!?」
二度目の斬撃もラタトスクの結界に防がれた。うむ。
「斬れないと分かったからって容赦なさ過ぎじゃありません!? 全然反応できないんですけど!?」
「首が飛んでも死なないって自分で言ったじゃないか」
「首を落とされると痛いって言いましたよね!?」
「他にも、『病院行け、頭の』というツッコミに即座に反応してみせたよな? この世界にはそんなものなんてないというのに。そもそも、ただのリスが俺の剣を避けられるはずがない」
「うっそ……何事もなかったかのように話を進めている……? これが真王……」
なんかブツブツ言っているが、まぁいいや。
「それで。お前さんの正体に一つ心当たりがあるんだが」
「……正体と言いますと?」
「お前さん、ほんとに『ラタトスク』か?」
「どういうことでしょう?」
「ラタトスクにしては妙な存在だよな。いや、そもそもラタトスク事態が奇妙な存在か。フレズとニーズヘッグの間を行き来して、お互いの敵意を煽るだなんて。一体何の意味があるんだ?」
「そりゃあもちろん……楽しいからですよ!」
「快楽主義者が」
「最高の褒め言葉ですね!」
「北欧神話で、お前さんみたいな快楽主義者に心当たりがあるんだが? 思うがままに行動し、行く先々で騒動を巻き起こし、神々の敵にも味方にもなるトリックスター」
「……その名前は?」
どこか楽しそうな、試すような目をするラタトスクに向けて。俺はその名前を口にした。
「――終わらせる者。ロキ」




