レバンティン
「ったく、調子が狂うな……。ほれ、完成だ」
え? 完成したの? レバンティンってあれだろ? 一説には世界を焼き尽くすというヤバい剣。それがあんな、ラタトスクの調子外れな歌と踊りが上演(?)されているうちにできちゃったと?
ちょっと、どうなんだ北欧神話。どうなんだ炎の神剣。
俺が微妙な顔をしていることに気づいているのかいないのか。オッサンがその剣をカウンターに置いた。
見た目は普通の刀。
そう、刀だ。
え? レバンティンって北欧神話に出てくる剣だろう? なんでこんな、日本刀みたいな外見をしているんだ? ミス? ミスったかオッサン?
「……失敗作?」
「バカ、よく見ろ。どこからどう見ても最上級品じゃねぇか」
「えー?」
クリエイトスキルで作った剣には出来の善し悪しがあって、それもあるからオッサンはクリエイトスキルを使わないんだよな。
まぁあれだ。ゲームで武器錬成するとランクSとかランクCとかになる感じ。その上さらに特殊効果がつくかつかないかもあるので、原作ゲームでは一種のガチャみたいなものになっていたらしい。シャルロットいわく。
しかし、こんな日本刀みたいな見た目で最上級品なのか……?
訝しみながら俺は試しに剣の――じゃなかった、刀の柄を握ってみた。ちなみにどういう理屈かは分からないがもうすでに鞘まで完成している。
その鞘から刀身を引き抜く。驚くほどに滑らかな動きだ。そのまま『慣れる』ために何度か振ってみると――
……おぉ?
おお?
おお!?
なんだこれ、重量バランスが完璧。完璧に俺が振りやすいバランスだ。しかも長さと重さまでが理想的。なんだこれ? こんな剣持ったことないぞ!?
「だから言っただろうが。最上級品だって」
「いや、でも、日本刀だぜ、これ?」
「にほんとう?」
「……見た目が竜列国の曲刀じゃねぇか」
「あぁ、そりゃ当然だ。お前さん、その形の武器を求めていたんだろう?」
「?」
「自分で言ったんじゃねぇか。次は竜列国の曲刀がいいって」
「そりゃ、そうは言ったが……それがどうしたんだ?」
「その剣の特性だな」
「特性?」
「持ち主が最も望んだものに変化する。それこそがレバンティンだ。だから弓兵が持てば弓になるし、槍使いが持てば槍になる。魔法使いが持てば魔法の杖になるんじゃねぇかな」
「はー……」
そういや前世での神話でも、『剣』だの『杖』だの色んな説があったんだっけ? つまりそれは使用者によって変わるから神話にも色々な状態で書き残されたと?
「じゃあ、弓にもなれるのか?」
レバンティンにそう問いかけてみると、レバンティンは強い光を放ち……重さが『がらり』と変わった。
光が収まったのでレバンティンを見ると……その姿は、前世の『和弓』そっくりになっていた。
なんだこれ? すごくね?
弓を引いてみるのは……店内だから後にするか。矢についてもレバンティンが用意してくれる感覚があるが、さすがに試し撃ちはなぁ。
とりあえずレバンティンには刀の状態に戻ってもらい、切れ味を確かめてみることにする。
刀身を鞘に収めて、抜刀術の態勢を取る。前世では居合いも習っていたからな。使い方に迷うことはない。
「――――」
明かりに誘われたのか、ちょうど良く蛾が飛んでいたので……そいつを狙って剣を抜いた。
胴体と羽根の繋ぎ目。そこを狙い通りに切り裂くレバンティン。
途端、切り裂いた蛾が炎に包まれた。おぉ凄い! 延焼効果持ちか!? そんなの王宮の地下宝物庫に治められている魔剣レベル――おん?
蛾はとっくの昔に燃え尽きたというのに、空中の炎は消えることなく、さらに大きくなっていった。
うん、このままだと天井に燃え移るな。
「しょ、消火ぁ!?」
「水! 水桶!」
「ボクが水を出しますよ! がぼぼぼぼ!?」
ラタトスクの水魔法で火は消えたが、出しすぎた水で店内は大きく浸水してしまったのだった。やはり首を切っておくべきでは?




