踊るラタトスク
「ったく、しょうがねぇやつだ。だが、良い鉄が手に入ったところだからな。それを使ってやるよ」
良い鉄を使えるのが嬉しいのかオッサンはどこか上機嫌に顎髭を撫で、
「おっと! お待ちください! ボクたちが準備した素材を使ってもらいましょうか!」
空気を読まず、オッサンの機嫌を一気に悪くするラタトスクだった。わざとやっているんじゃないかってほどのタイミングの悪さだ。
「素材だぁ? そこまで言うんだ、中途半端な素材を出しやがったら頭かち割るぞ?」
「皆さんボクの頭や首を何だと思っているんですか!?」
わざわざ警告してやるんだから、オッサンって優しいよな。
「アークさんにも優しさが欲しいものですね!」
俺の優しさは真っ当な人間限定だ。あ、いや、最近はゴブリンにも優しさを見せたから、真っ当な存在限定だな。
「ゴブリンに負けた……」
地面に手を突くラタトスクだった。
「くっ、まぁいいでしょう! ここはニヴルさんを驚かせて満足しようじゃないですか!」
そういうところだぞ?
俺のツッコミなど意にも介さずラタトスクが空間収納から素材を取りだし、カウンターの上に置いた。
そう、あの不死身でバカでかいニワトリの、尻の肉だ。尾羽付きの。
それを見て、おっさんが目を見開いた。
「……おいおい、こりゃあ……」
「ふふ~ん! 凄いでしょう凄いでしょう!」
「また、面倒くさいもん持って来やがって……」
はぁぁあ、っと。深く、深くため息をつくオッサンだった。
「あれー?」
小憎らしく首をかしげるラタトスクだった。まぁそりゃあ自分の店のカウンターに生肉載せられたらそんな反応もするよな。
「さて、じゃあとっととやっちまうか」
カウンターに生肉を載せたまま、オッサンが立ち上がり両腕を生肉の上にかざした。
鍛冶場を使う様子はない。これは、『クリエイトスキル』ってヤツだな。上位のスキル持ちは素材さえあれば火もハンマーも使うことなく武器を創造してみせるという。
しかし、オッサンがクリエイトスキルを使うとは珍しい。いつもハンマーを振るうことを誇りに思っているというのに。
そんな俺の疑問は顔に出ていたのか、オッサンは『ふんっ』と鼻を鳴らした。
「コイツはハンマーじゃどうしようもねぇからな。大丈夫、すぐ終わらせてやるよ」
そうしてオッサンは目を閉じ、何らかの呪文を唱え始めて――
「ここはボクが応援するべき場面ですね!」
なんかノリノリになるラタトスクだった。
「る~んるんるん♪ 可愛いボク~♪ 可愛いボクが応援しますよ~♪」
いきなり調子外れの歌を歌い始めたぞコイツ? おもしれーリス。
「頑張れ頑張れ髭オヤジ~♪ 可愛いボクが応援しますよ~♪ るんるんる~ん♪」
しかもお踊り始めた。どことなく阿波踊りっぽいな。踊る阿呆ってことか。
「――うるせぇぞ!」
「ぎゃあ!?」
どこかから取り出したハンマーをラタトスクに投げつけるオッサンだった。まぁしょうがない。




