鍛冶師
……なんか嫌な予感がするな。
こう、俺の知らないところで重要事項がバンバン決まっているような気がする。そして容赦なく巻き込まれるような気がする。
「未来とか遠くのことまで『感じ』られるんですかね?」
ラタトスクが小声でなんか言っていた。え? なんだって?
「なんでもないでーす。このバケモノが」
おい、小声で言っても丸聞こえだぞ?
さて。
俺はラタトスクの案内で神剣『レバンティン』を造れるという鍛冶師の元を訪れていた。
「はい! ここがその鍛冶師がいるお店です!」
「……なんだここか」
勿体振っているからどんな凄い店かと思えば。行きつけの店じゃねぇか。幸いにしてまだ明かりは付いているな。ま~た徹夜する気なのかねあのオッサン。
「いやいやアークさん。ここはたとえ知っている店だとしても『こ、ここが伝説の鍛冶屋か!』と驚くべき場面では?」
「んな芸人みたいなノリを求められてもなぁ」
「? アークさんはどこからどう見ても芸人で――はぁ!?」
剣は折れたが、まぁいいかということでラタトスクの首を狙う。刀身も半分くらい残っているしな。
「アークさんってボクの首を何だと思ってます!?」
「落とせそうで落とせない、狙いがいのある獲物」
「聞くんじゃなかった……こんな美少女の首なのに……」
なんか落ち込んでいるが、放っておけば復活するので放置。俺は遠慮することなく店の扉を開け放った。
「ニヴルのオッサン、いるか~?」
店の中に向けて声を掛けると、商品であろう剣の調整をしていた中年オヤジが顔を上げた。
顔の下半分を覆い隠す髭。
騎士を遥かに超えるマッスルな肉体。
子供のような身長。
いわゆる、ドワーフ。
まぁ、鍛冶師と言えばドワーフだよな。
「あん? なんだアーク――げぇ、ラタトスクじゃねぇか」
ものすっごく嫌そうな顔をするオッサン。まぁしょうがないよな。
「異議あり! 全然しょうがなくないと思います!」
「却下」
「なぜに!?」
「自分の胸に手を当てて考えてみろ」
「どれどれ……『ボクかわいい。ボクかわいい』……なんて素直な鼓動でしょう!」
「病院行け。頭の」
「ひっど!?」
ラタトスクとやりあっていると夜が明けるのでオッサンとの会話に戻る。
「オッサン。剣が折れた」
「またかよ! あれは自信作だから大切にしろって言っただろうが!」
「んなこといってもなぁ。師匠と真剣勝負したんだからしょうがないだろ?」
「……あぁ、ライラか。じゃあしょうがねぇな……」
やれやれとため息をつき、俺と向き合うオッサン。
「で? 今回はどんな剣が欲しいんだ?」
「今度は曲刀がいいかな。ほら、竜列国でよく使われているヤツ」
「あぁ、あれか。あれは普通の剣とは違うから習熟に時間が掛かる――いや、アークに言っても無駄か。どんな剣でもすぐに使いこなせるんだからな」
大げさにため息をつくオッサンだが、新しい剣でも何度か振れば『分かる』もんじゃないのか?
「ねぇよ。ふざけんな。世界中の剣士と鍛冶師に喧嘩を売るんじゃねぇ」
なんか壮大な話になってしまった。
「アークさんは自分の力に自覚がなさ過ぎですね……」
なぜかラタトスクからも呆れられてしまった。あのラタトスクから呆れられてしまった。これはラタトスクの首を刎ねても許されるのでは?
「許されないですね!?」
今日も元気いっぱいなラタトスクだった。




