勧誘
剣、折れる。
いやいやいや! いくらナマクラだからってさぁ! 数回やりあっただけで折れるってどういうことだよ!? もしや手入れをサボってたなラックの野郎!?
「よく剣を折る男だな! アーク・ガルフォード!」
相手の剣が折れようとも大振りになることなく、油断もせず、普段通りの一撃を食らわせようとするブリッシュさん。さすがは第一騎士団長を勤め上げただけのことはある。
しかし、俺だって黙って斬られる趣味はない。
かつての俺なら相手の身体にタックルして接近戦に持ち込むのだが……今の俺には前世で培った『技』がある。
「傍流・柳生新陰流秘伝――無刀取り」
俺の両手が、今振り下ろされているブリッシュさんの剣、その柄を掴んだ。
だが、力で対抗することはない。
むしろ逆。鍛え上げられたブリッシュさんの筋力を存分に活用し、合気で以て力を受け流し――投げ飛ばした。
「ぐぅ!?」
地面に背中を叩きつけられ、一瞬呼吸もできなくなるブリッシュさん。
これで決着だ。
師匠と違ってブリッシュさんは潔いからな。馬乗りになって制止する必要もない。
「俺の勝ちですね」
「……あぁ、そうだな。今の強さに慢心することなく新たな体術を習得したか。さすがだな」
俺とブリッシュさんがニヒルに笑い合っているところで。
「はいはい、天丼天丼。ライラさんと同じ決着方法じゃないですか」
雰囲気をぶち壊すラタトスクだった。剣があれば真っ二つにしているところだ。縦に。というかなんでお前さんが師匠との決着方法を知っているんだよ?
◇
剣での決着を付けたおかげか、ブリッシュさんの雰囲気もずいぶんと柔らかいものとなった。
「剣と剣でわかり合う……。脳筋……」
うるせーぞフレズ。
「で? ブリッシュさんが『元』第一騎士団長ってどういうことですか?」
「あぁ。あの王太子からクビにされてな」
とうとう自分のクーデターを支持した人間からすらアホ呼ばわりされるアホだった。まぁアホだからしょうがない。アホ。
「はぁあああぁあああああああっ!?」
素っ頓狂な声を上げたのはソフィー。いくら軍事方面に疎くても『近衛騎士団長に続いて第一騎士団長までも解任』となればそんな声も出したくなるよな。
思いっきり叫んだおかげで逆に落ち着いたらしいソフィーが長考に入る。
「…………。…………。…………。……なるほど。国王陛下が死んでから王太子が国を継いでは、もう取り返しが付きませんからね。自分が元気なうちに色々処理しておこうという判断ですか。たとえ戦争が起ころうと、一時的に国を失うことになろうとも……完全に滅びるよりはマシと考えて……」
なんかブツブツと呟くソフィーだった。こわい。見なかったことにしよう。
というわけで。改めてブリッシュさんに向き直る俺。
「あー、じゃあブリッシュさんはこれからどうするんですか?」
「そうさなぁ。神聖アルベニア帝国あたりに再就職しようかと思っていたが……。こんなにもあっさりと負けるようではそれも無理かもしれないな。そもそも俺には人徳がない。帰る家も守る土地もないし、いっそ冒険者にでもなるか……」
「おっ、うちの妹は貴族でありながら冒険者をやってますから、色々話を聞けると思ういますよ」
「そういえばレディアナ嬢は高ランク冒険者だったか。うむ、縁は大切にしなければいかんな」
憑きものが取れたように温和な顔で笑うブリッシュさん。
そんな彼を見て、俺は一つのアイディアを思いついたのだった。
「どうです? 魔の森で魔物狩りとかしませんか?」




