真剣
「呼ばれて飛び出てボクです――よぉ!?」
挨拶代わりの斬首は失敗した。残念無念。
「挨拶代わりに斬首しようとするの、やめてくれません!?」
「しかしなぁ、なぁんか嫌な予感がするんだよなぁ」
「ちっ、鋭い。じゃなかった。冤罪! 冤罪です――よぉ!?」
返す刀の斬首は失敗した。まぁいつものことだな。
「うぅ、ボクの扱いが悪すぎる……」
「日頃の行いだな」
「否定できない……」
しろよ。
「ほらボクって正直者として通ってますので」
「なるほど初手で嘘つきだと告白すると。中々に正直者じゃないか」
「そうそう正直――あれ?」
首をかしげるラタトスクだった。ソフィーの可愛らしさとは天と地の差があるな。
「酷くないっすか!?」
天国と地獄まではいかないのだから、むしろ優しい方だろ?
「ひどい……。ひどすぎる……。やはり『ボン! キュッ! ボンッ!』な肉体になってアークさんを籠絡するしか……」
ボンキュッボンで思い出すのはクーマなんだよなぁ……。肉体美人。顔はクマのぬいぐるみ。
「そんな珍妙な存在と一緒にしないでもらえません!?」
似たようなものだろ。
「ちーがーいーまーすー! 断固として抗議します!」
「はいはい。で? 今度はどんなトラブルをもってきたんだ?」
「そうでした! それではご登場いただきましょう! 『元』第一騎士団長のブリッシュくんです!」
じゃじゃーんとラタトスクが扉を開け放ち。入ってきたのはまさしく第一騎士団長のブリッシュさんだった。
しかし、元? まさかあの王太子、また追放したとか? いやでもいくら何でも近衛騎士団長と第一騎士団長を追放したりはしないか。常識的に考えて、そこまでアホのはずがない。……ないよな? 近衛騎士団長だけじゃなくて第一騎士団長までクビにしたら、マジで他国は侵略し放題だぞ?
ブリッシュさんは顔をしかめながら建物の中を見渡した。
「……血のニオイがするな」
「あー」
そりゃそうだ。まさしくこの建物で第一騎士団員を何人か『ばらりずん』したのだから。さすがに他の団員が死体を回収したみたいだが、血はまだ残っているはずだ。
ちなみに部屋の中は暗いので血の跡も目視できず、だからこそソフィーやアリスも平気な顔をしているのだろう。……まぁソフィーの場合は気づかないふりをしているだけかもしれないが。
そんなことを考えていると、ブリッシュさんは腰の剣を抜いた。僅かに差し込む月明かりに反射して剣身が煌めく。
「いやいやブリッシュさん。いきなり真剣っすか?」
「当然だ。分かっているだろう?」
「ソフィー――じゃなくて、王女殿下とアリスを攫ったことですか? いやでもその辺は成り行きというかなんというか……」
「お前が女を連れ回すことに、今さらとやかく言うつもりはない」
いやなんで? なんであんたまでそんな認識なんです?




