魅了
この世界にも『ティーセット』やらなんやらの横文字は存在する。自然に発生したものか以前の転生者が残したものかは知らないが。
しかし、『セカンドチャンス』なんて言葉はなかったはずだ。
可能性としてはシルシュやフレズみたいな神様系か、俺やシャルロットみたいな転生系。
……うん、神様って感じじゃないな。
…………。
……いやしかし、神様も割とポンコツか?
「猛烈に抗議します」
割とおもしれー女であるフレズが寝言を言っていた。
「解せぬ……」
ぬぐぐっとした顔をするフレズは一旦置いておくとして。
暫定転生者のアリスは必死な様子でソフィーに弁明していた。
「本当です! 私悪くないんです! 信じてください王女様!」
うわぁ。
なんかめっちゃキラキラしているな。背景に星が舞っているような気さえする。これがゲームのヒロインか。ヒロイン力か。……こんな特殊能力は設定していないはずなんだがなぁ。
「くっ」
ちょっと頬を赤く染めながら一歩後ずさるソフィー。
おお、あのソフィーが絆された?
自分のことより国のため。国のためなら政略結婚ですら受け入れちゃうであろうソフィーが、絆された? マジかよすげぇ。これが本物のヒロインかぁ……。
そんなヒロイン様はソフィー相手に手応えを得たのか、今度は俺に首を向けてきた。
「助けてくださいアーク様! 本当に! 誤解なんです! アーク様だけは分かってくださっているんですよね!?」
きらっきらと。
途轍もない美少女が、途轍もなく愛らしい上目遣いを俺に向けてきていた。なるほどこれはソフィーに匹敵するほどの可愛らしさだ。
しかし……。
「そうやって自分の見た目の良さに甘えて説明を省くから、どんどん誤解されるんだぞ?」
ついついお説教してしまう俺だった。シャルロット相手なら脳天に空手チョップしているところだな。軽めに。
俺の反応が予想外だったのかアリスは愕然とした顔をしていた。
「な、なんで効果がないんですか!?」
効果って。
そりゃあ美少女だと思うが、自意識過剰じゃね? ……ああいや、王太子や側近たちだけじゃなく、ソフィーまで絆してみせたのだから過剰でも何でもないか。俺には効かなかっただけで。
と、俺の横にフレズが寄ってきて小声で耳打ちする。
「この人、無自覚に『魅了』スキル使ってますね。しかもかなりレベルが高いヤツ。さすがに神格者には効果がありませんが」
神格……。だからフレズも平気そうな顔をしていると?
しっかし、魅了ねぇ? 悪役令嬢ものではテンプレだが……。それなら何で俺に効果がないんだ?
「女たらしだから慣れているだけでは?」
なんでだよ?
「そりゃあ数々の美女・美少女と浮き名を流しているのですから、その辺も鈍くなるのでは?」
なんでだよ?
そもそも、万が一、俺が浮き名を流しているとして。フレズが知っているわけねぇじゃねぇか。いやラタトスクなら情報を得ても不思議じゃないけどな。
……そういえば、ラタトスクは何をしているのやら。




