地獄行き
さて。ソフィーを無事に別宮から連れ出したあと。
例の隠し通路が繋がった家でシルシュの帰りを待っていると、ラタトスクは「ちょっと野暮用が」とどこかに行ってしまった。
俺の周りの女性、フリーダムすぎないか?
「真王様がフリーダムですしね」
フレズに突っ込まれてしまった。というか普通に『フリーダム』という言葉を使うのな。シルシュもそうだったが、やはり神様系はあっちの世界の情報も得られるのだろうか?
いや、それは置いておくとしてだな。
「俺のどこがフリーダムだよ? ごくごく一般的な常識人じゃねぇか」
「ハッ」
鼻を鳴らされてしまった。キミそんなキャラだったっけ?
と。
なぜだかまだソフィーが『ぷっくー』っと頬を膨らませていた。かわいい。
「どうしたよ?」
「いえ、アークはわたくしの知らないうちに女性を口説き落としていたのですねぇ、と」
「落としてねぇって」
な? とフレズに視線を投げかける。
「そんな、まさか私までも落とされていたとは……」
おーい。なんでこういうときだけノリがいいんだよ?
「まぁ、アークはそういう男ですしね……」
俺の評価が急降下しすぎている件。
「はぁ……。おっと、そうだ。ソフィー、せっかく王都にまで来たのだからちょっと鍛冶師のところに寄っていきたいんだが」
「鍛冶師ですか?」
「おう。師匠に剣を叩き折られたんでな」
「何をしていますのあの方は……」
「何なんだろうなぁ? まぁ、ソフィーを王都に帰すときでもいいんだが」
やっぱり剣は少しでも早く入手しておきたいからな。いつまでも予備というわけにはいかないし。レディから借りたらレディの剣がないし。ラックのはナマクラだし。
「王都に、帰す?」
こてん、と首をかしげるソフィー。
「?」
「?」
「?」
首をかしげ合う俺とソフィーだった。
「にっっっっっっっっぶっ」
なんか『うげぇ』という顔をするフレズだった。
これはあれだな。今のうちに認識のすり合わせをしておかないと後々酷いことになるヤツだな? 今までの経験からそれを察した俺はソフィーと話し合いをしようとしたのだが。
「――ふぎゃぁああああああぁあああぁああああ!?」
猫が尻尾を踏まれたような。
どこかで聞いたことがあるような叫び声が響いてきた。
なんだなんだとソフィーやフレズと顔を見合わせていると、ドアが開け放たれた。
室内に入ってきたのはシルシュ。そして、シルシュの小脇に抱えられた美少女が一人。
「……アリス嬢?」
なんでこんなところに?
「――っ! アーク様! 助けてください!」
「おう? なんか知らんが……。シルシュ、淑女を小脇に抱えるなって。さっさと降ろしてやれ」
『ふむ、それもそうじゃな』
パッと手を離すシルシュだった。
重力に従い床に落ちるアリス。それはとても可哀想な光景なのだが、『ぶぎゃ』という鳴き声(?)はどうなんだ? せっかくの美少女なのに……。
「や、やはりアーク様が助けてくださいました!」
神に祈りを捧げるように手を組んで号泣するアリス嬢だった。おぉ、なんだか知らないが地面にめり込んでいた俺の評価が急上昇しているな?
「……まさかこの女まで落としていたとは……」
地獄の底から響いてくるかのようなソフィーの声だった。俺の評価、地獄までめり込んだかもしれん。




