閑話 第一騎士団長・2
「さて、どうしたものか」
元・第一騎士団長のブリッシュは一旦立ち止まり、そっと呟いた。
城門の前で振り返るが、団員が追いかけてくる様子はない。ほんの少しだけ「待ってください団長!」とか「俺もついて行きますぜ!」みたいな展開を期待していたのだが。
(我ながら、なんとも人徳がないな)
いっそ笑えてくるブリッシュ。だが、仕方ない。実力で言えばアークこそが第一騎士団長になるべきだったのだから。年齢が若すぎたこととライラが手放さなかったせいで実現しなかったが……。
(しょせん俺は、アークがそれなりの年齢になるまでの繋ぎでしかなかったか)
だが、下手に追いすがられるよりは気持ちよく辞められるかと考え直すブリッシュ。
これからどうするか?
お情けとはいえ第一騎士団長に任命されていたのだ。就職先には困らないはず。王太子からクビにされたというのが評価に響くかもしれないが……逆に、王太子の低評価のおかげでそこまで重視されないかもしれない。
神聖アルベニア王国か。レイナイン連合王国か。情報の売り先としては神聖アルベニア王国の方がいいかもしれない。
城門は問題なく通過することができた。そもそも王城の門を守っているのは第一騎士団員なのだから当たり前だ。
そういえば、王城から出たのは久しぶりだったかとブリッシュが大きく息を吸い込んでいると――
「――やや、これはこれは『元』第一騎士団長殿。丁度いいところに」
気配もなく声を掛けてきたのは、情報屋のラタトスク。相変わらず庶民の少女にしか見えないが、只者ではないことくらいブリッシュでも分かる。
なにせ、今辞めてきたばかりのブリッシュを『元』第一騎士団長と呼んでみせたのだ。その情報収集能力は恐ろしくすらある。
それにきっと、ブリッシュが不意打ちで斬りかかったとしても平然と避けてみせるだろう。
「なんだ? また何か情報を持ってきたのか? すまんが、お前が知っての通りもう第一騎士団長ではないのでな。予算は使えないし、情報も必要ない」
「いえいえ、今回は今までごひいきにしていただいたという感謝の念を込めまして、無料でお渡しいたしましょう。なんて心優しいのでしょうかボク」
「…………。……お前の『無料』ほど恐ろしいものはないがな」
だが、聞くくらいならいいだろうとブリッシュは判断する。というか、聞かないまま何か重大な見落としをして詰む可能性だってあるのだから。この女にも僅かばかりの良心があると信じるしかない。
「では、いいことを教えましょう」
「うむ」
「たぶんあなたも喜んでいただけるはずです」
「ずいぶんと勿体振るではないか。で? どんな情報だ?」
「はい。――アリスさんと、アークさんの居場所などいかがでしょう?」




