親心?
不承不承、といった顔でソフィーが頷く。
「そう、大きな問題はないのです。一部滞っているところはありますが、混乱が収まればそれなりに動き始めるのでしょう。あとはあのアホが金を使い込んでいますが、それも国庫ではなく王家の私財を使い込んでいるだけですし」
「ははぁ」
そういやぁ、ガルさんが「はっはっはっ! 国庫の金庫番はとっくの昔に逃がしたからな! 今ごろあいつら困っているぜ!」みたいなことを叫んでいたな。
「騎士団についても、混乱しているのは近衛騎士団だけで、軍事力の中心となる第一、第二、第三騎士団は健在。近衛騎士団にしても副団長が団長に就任して事態の収拾に動いていますし」
「…………」
いや、まぁ、『問題なさそう』といってもそれはあくまで現状の話なんだけどな。内政はともかく、ソフィーがあまり詳しくない軍事・外交方面はかなりヤバい。
ソフィーとしては「近衛騎士団が混乱しているだけ」なんだろうが、うちの国って防衛力の大部分を元勇者に依存していたし、師匠がいたからこそ他の国と渡り合えていたところがあるからなぁ。
そもそも今ってソフィーが神聖アルベニア帝国に嫁入りするという話になっているんじゃなかったっけ? 俺はてっきりソフィーが『国のため』に嫁入りする覚悟を決めていると思っていたんだが……。
……もしかして、知らない?
現在の外交状況とか、自分の婚姻話を、知らないとか?
……あり得るよなぁ。
今は軟禁されているから外からの情報は入ってこないだろうし。そもそも国王陛下がその気になればソフィーに入ってくる情報を完璧に制御することだって可能だろう。
陛下がソフィーに教えないようにしていたとして。目的は何だ?
ソフィーが反発して逃亡しないようにした?
……いや、ソフィーの性格ならむしろ積極的に受け入れるだろう。――国のために。それがソフィーという少女なのだから。
なら、いったい?
いったいどんな目論みがあって――
俺が悩んでいると、ソフィーが再び『ぷくー』っと頬を膨らませた。
「こんなこと、アークにしか言えませんが」
「お、おう?」
ここにはフレズとラタトスクもいるんだが? なぁんて、空気の読めない発言はしない。二人も邪魔にならないよう息を潜めて気配を消してくれているしな。
「王族とは国民からの血税で生かされている存在。ならばこそ、この身は国のため、民のために使い潰すべきだと考えていました」
「…………」
「わたくしは今まで国のために一生懸命働いていましたし、それなりに重要なことをしてきたつもりでした。しかし、実質的な国王があのアホになり、わたくしが軟禁されたことで政治に関われなくなった結果……国は、さほど問題なく回っているのです」
「あー……」
なんというか、そりゃそうだ。
国というのは一個の大きなシステム。『部品』が一つ抜け落ちたところで他の部品が補うし、簡単に機能不全に陥るようなものではないのだ。
あとは本当にヤバいところは国王陛下が裏で手を回しているんだろうが……。ま、そこまでは言わなくていいか。
なぜなら今は『説得』する好機なのだから。
なるほど、と気づく。
陛下はソフィーを抜け出させるつもりなのだなと。




