ソフィー
「……ま~あ? アークがそういう男というのは分かっていますし~?」
ぷっく~っと頬を膨らませるソフィーだった。この子、ときどきこういう風に子供っぽくなるんだよな。いつも王女として気を張っている反動か? あの父親相手だと甘えられないだろうしなぁ……。
まぁ、ソフィーはまだ16歳。前世で言えば高校生なんだから、おふざけで頬を膨らませても許される年頃だろう。
「殿下、そろそろ機嫌を直してくださいって」
「ソフィーです」
「……いや、他の人もいるんですから……」
「さっきはちゃんとソフィーと呼んでくれたではありませんか。それと口調も堅苦しいものに戻っています」
「あれは、ほら、ついつい、いつもの癖というか……」
なんだか不機嫌だな? と俺が首をかしげていると、すぐ後ろでフレズとラタトスクがひそひそと話をしていた。
「ソフィーですって」
「まさかの呼び捨てですよ。王女様を」
「王都についた途端メイド長や王女とよろしくやって」
「そりゃあシャルロットさんたちは別行動にしますよね~」
「現地妻ってヤツですか」
俺の評価、もう地面にめり込んでない?
いやいや、まてまて、ソフィーを『ソフィー』と呼ぶのはあくまで彼女自身が望んだことなんだ。周りにいる人間で俺が一番年が近いからと。さすがに他の人の目があるところでは呼べないが、プライベートな空間にいるときくらいならいいだろ?
「年が近いから、って。言い訳に決まっているでしょう?」
「乙女心をまるで理解していませんね」
「許されぬ王女と騎士の恋」
「せめて二人でいるときは名前で呼んで欲しいと」
「乙女ですねぇ」
「キュンキュンしちゃいますねぇ」
神話の登場人物なのに、身分違いの恋に関するその理解度の高さは何なの?
なんだか深入りすると厄介なことに巻き込まれそうな。二人から少し距離を取った俺は小さく咳払いし、本題に入ることにした。
「じゃあ、遠慮なく。ソフィー、一号案件の内容についてすり合わせをしたいんだが」
真面目な話になったおかげか、ソフィーも頬を膨らませるのを止めてくれたのだった。
「はい。お兄様の暗殺をお願いしようと思っていました」
「……穏やかじゃねぇなぁ」
だが、それでこそソフィーだ。国のためなら自らの兄を殺すことすら決意し、その罪を自分一人で背負い込もうとする。まったく真面目というか不器用というか……。
感心5割、呆れ3割。やっぱり俺がやるんだなという諦めが2割。
ま、ソフィーに頼まれたのなら仕方ない。それに、あのアホにはシャルロットたちに冤罪をふっかけ追放した『ケジメ』をつけさせないといけないからな。
あのアホがいる本宮には第一騎士団が陣を敷いているはず。さてどうやってぶち殺すかと俺が頭を悩ませていると――
「――しかし」
「しかし?」
「……どうにも、悩んでしまうのです」
「悩むって?」
今さら実の兄を殺すことを悩みはしないだろう。なぜならとっくの昔に見切りを付けたはずだからだ。
まったく、今度は何を考えすぎているのやら。
「…………。……こちら、メイドたちに集めさせた資料ですわ」
ソフィーが紙束を取り出したので、受け取って読み始める。
これは……議会の議事録で、こっちは各省の動きを纏めたものか。
議事録に関しては普段どういったことをやっているのか分からないので何とも言えないが、なかなかスムーズに議決されているのではないだろうか?
各省の動きもまたよく分からないが、騎士団関連なら理解できる。……問題なく執行されているみたいだな。第一騎士団の横暴に関しては問題視されているが、逆に言えばちゃんと問題として認識されているし、すでに何人かの騎士は処罰されたようだ。
これは、なんというか……。
「意外と問題なさそうだな」




