再会
さて、今俺たちがいるのは何の変哲もない建物だ。
しかし、それはあくまで表向きのこと。
俺は床に敷いてあった絨毯というかゴザを剥がし、床板のうちの一枚を思い切り踏みつけた。
バネが仕込んである床板は跳ね上がり、その下にあった『取っ手』の姿を露わにする。
その取っ手を掴んで右に90度回すと――床の下から『ガコン』という音がした。
ロックが外れたので床板を持ち上げる。すると、十枚ほどの床板が纏まって動き、扉のように動いた。分かり易く言うと『観音開き』か。
観音開きの奥にあるのが地下へと繋がる階段だ。
「おお!」
「これが!」
目をキラッキラとさせるフレズとラタトスクだった。神話の登場人物ってこういうの好きなの? ……シルシュも好きそうだな。
まぁとにかく。ベラさんに別れを告げた俺は地下への階段を降り始めたのだった。
「ちょっとちょっと、明かりくらい付けましょうよ」
「いや、明かりなんてなくても進めるしな」
「……人間がしていい発言じゃない……」
うげぇっという顔をしたラタトスクが魔法で明かりを付けてくれる。こちらとしても照明はあった方が進みやすいので、そのままラタトスクの好意に甘えながら地下道を進む。
地下道は四角い岩を組み上げて作られており、高さは人がギリギリ立って歩ける程度。水路の両脇に人が歩ける道があるって感じだ。
「ここが抜け道ですか……あまり変なニオイはしませんね」
フレズがすんすんと鼻を動かし、
「ここは王都の地下を流れる上水道っすからね~。一段下には下水道もあるはずで、そこはものすっごいニオイじゃないですかね?」
おいおい。
「ラタトスクよぉ、何でそんなことまで知っているんだ?」
「情報屋ですから♪」
「実力のある吹聴屋とか厄介以外の何者でもねぇな。やっぱり斬っておくか」
「アークさんはボクの命を何だと思っているんですかね!?」
「なんか……何度でも復活しそうじゃね?」
「否定はしませんけどね!」
「しないんかい」
思わずコテコテのツッコミをしてしまう俺だった。
というか、いつの間にか『真王様』から『アークさん』に呼び方が格下げ(?)されているな。まぁ別にいいけど。俺も今度からリス子と呼ぶかなー。
「いや格下げって。リス子って。なぜ好感度が上がったと考えないのですか?」
「隙あらば首を狙っている男の好感度が上がるはずがないだろう?」
「自覚があるようで何より! ならもうちょっと自重してほしいのですけどね!」
「自重してなかったらお前さんの首は三回飛んでいるな」
「具体的な数字きた!?」
「心優しいよな、俺」
「いやいや、心優しい人はまず首を狙いませんって」
ラタトスクがツッコミをしてくると、フレズが俺たちに少し冷たい目を向けてきた。
「二人とも、あまり大声で騒ぐと反響してうるさいのですが」
「「あ、すみません」」
大人しく謝る俺たちだった。
そんなやり取りをしながら地下道を進み、目的の場所へ到着。
前世で言うところのマンホール。簡易的なハシゴを登ると、隠し通路出入り口から別宮の中に入れるようになっている。
一応、気配を確認。……よし、誰もいないな。
「……ボク、あの力を『気配察知』で済ませるのは間違っていると思うんですけど」
「あなたと意見を同じくするのは癪ですが……そうですね」
まったくコイツは……みたいな目を向けられてしまう俺だった。なんでだよ?
なんか最近ますます女心が分からなくなってきているが、まぁそもそも俺みたいなモテない男が理解しようと思うのが無理な話か。さっさと見切りを付けてハシゴを登り、別宮に潜入する俺だった。
俺の予想では別宮に入った瞬間「おぉ、久しいなアークよ」と国王陛下が声を掛けてきてもおかしくは無いと思っていたのだが……やはり、気配察知した通り誰もいなかった。さらに気配察知をしつつ、別宮の中を進んでいく。
(ソフィーの気配は……こっちか)
気配察知とは便利なもので、警備の騎士や別宮付きのメイドたちを避けながら移動することができる。……まぁ陛下のことだから騎士やメイドを全員息の掛かった者にしていても不思議じゃないんだけどな。それはあくまで可能性。ここは警戒した方が間違いはないだろう。
少々の時間を掛けて、ソフィーが軟禁されているだろう部屋の前に到着。
こういうとき、普通は扉の前に騎士が二人立っていてソフィーが逃げることを防いだり、逆に誰かが入らないよう警戒しているはずなのだが……誰もいないな? まさか第一騎士団長が警備の兵まで本宮へ引っ張っていったとか? あるいはまた国王陛下が何か暗躍したのか……。
どちらかは分からないが、警備がいないのは事実。というわけで俺は遠慮なく部屋の扉を開け放ったのだった。
「おうソフィー。中々ゴキゲンな状況みたいじゃねぇか」
「――っ! アーク!」
久しぶりに再会したソフィーは喜色をその顔に浮かべながら振り返り――
「…………。……ま~た女を侍らせているのですか?」
絶対零度の視線を俺に向けてくるのだった。俺、そんな毎回女連れのイメージなんですか?




