抜け道
「とりあえずソフィーに会いに行きますか。ベラさん、第一騎士団の動きは分かりますか?」
「えぇ。第一騎士団長様はライラ様の襲撃に備え、本宮に第一騎士団員を集めております」
騎士団の動きは本来極秘のはずだが、王城内でメイドに知られずに動くのは無理だよな。
本宮というと、元々は国王陛下が公私の場として使っている場所。今は王太子がいるところか。
しかし、師匠の襲撃? 何でそんな話になっているんだ?
「おそらく、いくらアーク様でもたった一人で王都に乗り込んでは来ないだろうという判断でしょう」
「あー……」
うん、俺も王都に攻め込むなら最低でも師匠を連れ来るんだがな……。あと、ベラさんたちは知らないだろうけどシルシュっていう最強クラスの戦力がいたんですよ。今はどっか行っちゃいましたがね。
「はぁ……。さらに女性を落としたと?」
「落としてませんって。というかシルシュを落とせるってどんな男ですか?」
もしもそんな男がいるとしたら、きっと神代竜であるシルシュの興味を引くほどの『力』があり、シルシュと対等にやり取りできる男であり、なにより種族の差を超えるほどに顔が良い男だろうな。
「自慢ですか?」
「自慢っすね」
なにが?
フレズとラタトスクの発言は気になるが、あまり遊んでいる時間はない。
ブリッシュ騎士団長は師匠が襲撃してくると考え、本宮の守りを固めているという。
つまり、ソフィーたちが軟禁されている別宮は手薄ってことだ。
メイドたちの目を誤魔化すのは困難なので、罠という可能性も低いはず。忍び込んで話を聞くくらいはできるだろう。
場合によってはソフィーを連れて逃げることになるが……まぁ、いざとなれば空間を切り裂いてしまえばいい。
(まずは別宮に向かうか。……それだと国王陛下ともエンカウントしそうなんだよなぁ。あの人、絶対丁度いいタイミングで出てくるんだ……)
陛下の相手は正直面倒くさいが、シャルロットたちがあんな事態に巻き込まれることは予想できていたのだろうし、一発ぐらいぶん殴ってもいいんじゃないかな?
「いえ、許されませんよ?」
呆れたようにため息をつくベラさんだった。いやしかし時には主君を窘めるのも配下の役目みたいな理屈を適応すれば大丈夫では?
「どこをどう考えても大丈夫ではありませんね。余計な騒動は起こさないでください」
「ういっす」
まぁベラさんに止められたなら仕方ない。国王陛下をぶん殴るのは誰も見てない瞬間を狙ってするとして。
通常、王城に潜入するのは難しいものだ。そもそも城塞なので守りは堅いし、出入り口も少なくなっているからな。
だが、それは普通に出入り口を使った場合のこと。
ソフィーから護衛に指名されることが多かった俺は、万が一の際にソフィーを逃がすことができるよう王城内の抜け道・脱出ルートは知り尽くしている。抜け道を逆に辿れば王城内に潜入できるって寸法だ。
もちろん抜け道の中には警報装置が付いているし、出入り口は常に近衛騎士が監視しているのだが……。その辺のこと、第一騎士団の連中が知っているはずがないからな。安全に王城内へ潜入できるはずだ。
「じゃ、さっそく潜入してきますわ」
「えぇ、ご武運をお祈り申し上げております」
「ベラさんは一緒に来ないんですか?」
「私は買い出しのためと言い訳して裏口から普通に出てきましたから」
メイド長のベラさんなら抜け道も知っているはずだが、そう何度も抜け道を使っていては第一騎士団の連中にバレてしまうかもしれないってことか。
「んじゃ、ここで一旦お別れっすね。なんか困ったことがあったら魔の森まで来てください」
「――えぇ、その際は頼りにさせていただきます」
メイドらしいそつのない一礼をするベラさんだった。




