乙女心とは
「アーク様が女をたらすのはいつものことですか」
小さく頷くベラさんだった。いやおかしい。美人さんを食事に誘っただけでなぜこんなにも言われなきゃならないのか。
おっと、ここで重要なのは、『美人』とは外見の美しさだけじゃないってことだ。むしろ内面の美しさこそが重要で、その意味で言うとラタトスクは外見はいいけど中身がアレなので――おっとぉ!?
殺気がしたので緊急回避。どうやらラタトスクが俺の首を狙ったらしい。振るわれた右手の爪がちょっと伸びているな。
まぁしかし、年頃のリスに対して失礼だったかもしれんな。すまんすまん。
「なーんか扱いが軽くないっすか?」
「しょうがないよな、ラタトスクだし」
「ぐぬぬ……」
自覚はあるのか歯ぎしりするラタトスクだった。
「――さて。本題ですが」
ごくごく自然と仕切り始めるベラさんだった。まぁこの中で一番の常識人だからな。
「え?」
私は? みたいな声を上げるフレズ。常識人は不意打ちでラタトスクの首を狙わないんじゃないかなー。
「だってラタトスクですよ?」
分かるけどさー。常識人とは言えないよなー。
「むぐぐ……」
俺たちがこんなやり取りをしている間にもベラさんが話を進めてくれる。
「まずは現状の確認とまいりましょうか。アーク様は現在の王都の状況をどれほどご存じで?」
「えーっと、近衛騎士団は反抗的な連中が拘束されて、第一騎士団が色々やらかしていて、国王陛下とソフィーが軟禁されているんでしたっけ? あと、ソフィーが無理やり嫁がされそうになっているとか」
「結構。それだけ知っていれば十分でございます。さすがはアーク様ですね」
「いやぁ」
美人から褒められて照れてしまう俺だった。
「チョロい」
「というか、教えたのボクなのに……」
じとーっとした目を向けてくる二人組だった。
「王女殿下は一号案件を発動なされたようで」
「さすがベラさん。よくご存じで」
「近くにメイドがいましたので」
ベラさんは王城で働くメイドが見聞きした情報を集める立場。王城で起こったことについては国王陛下直属の『影』にも負けない情報収集能力を持っている人なのだ。
「で、一号案件なんですけどね、ソフィーが自分を助けてもらうために発動するかなーっと疑問に思いまして。ちょっと話を聞きに来たんですよ」
「確かに。王女殿下であれば、自分のことは一番最後にしてしまってもおかしくありません」
「でしょう?」
「……しかし、そうとも限らないのではないでしょうか?」
「と、いいますと?」
俺の疑問に、ベラさんはほんの少し目元を緩めながら、答えた。
「――乙女とは、『騎士様』に助けてもらうことを夢見ている存在なのですよ」
「あ、はぁ……?」
俺としてはよく分からなかったのだが。
「わかる」
「わかる」
うんうんと頷く二人だった。え、そんなもんなの? あのソフィーが?
というかお前さんたちが乙女心関連で頷くのは無理がある――ぬおぉお!?
容赦なく腕を振るい、容赦なく俺の首を狙ってくるフレズとラタトスクだった。こいつらツッコミが激しすぎる! ケツを蹴り上げてくるシャルロットたちが可愛く感じられるぜ!
「……イチャイチャして……」
いやベラさん。これのどこが『イチャイチャ』なんですか?
「と、とりあえずソフィーには会いに行くとして……。国王陛下、どういうつもりなんですかね?」
「私にはあの御方の深謀遠慮を推し量ることなど」
遠回りに「あんな腹黒の考えていることなど知るか」と言われてしまった。
「ですが、あの御方のことですから今の状況は全て織り込み済みでしょう。アホのやらかしから、王女殿下のこと、さらにはアーク様の動きまで……」
「…………」
どうかなぁ?
あのオッサン、けっこう抜けてるところがあるからなぁ。意外と行き当たりばったりにやっているんじゃないか?
というか。メイド長からも『アホ』呼ばわりされる王太子だった。




