日頃の行いっすね~
「さて、っと」
屋根の上を走ることで第一騎士団の連中を撒いた俺は、少し離れた場所にある建物に移動した。
何の変哲もない、庶民が暮らすような平屋建ての家だ。
「ここは?」
フレズの疑問に少し口角を上げながら答える俺。
「密会場所だ」
「……あー」
「聞きしに勝る女たらし……」
なぜか白けた目を向けてくるフレズとラタトスクだった。いやいや、待て待て。密会って男女がキャッキャするという意味じゃなくてな、秘密の会談をするという意味だ。今回で言えば国家に関する重大事項を。
「どうだか」
「どうだか」
なんか俺の評価低くない? 気のせい?
釈然としないが、道に突っ立っていては第一騎士団の連中に見つかってしまうかもしれない。というわけで俺は合鍵で扉を開け、中に入ったのだった。
「――お疲れ様でございます。アーク様」
見事なる一礼をして出迎えてくれたのは、質素なメイド服を身に纏った女性。
王宮のメイド長・ベラさんだ。
まだ二十代半ばでありながら、王宮で働く炊事担当や洗濯担当など、百人を超えるメイドたちを統括する司令塔。眼鏡の似合う知的美人さん。クールな目つきが今日もまた美しい。
やっぱりこういう大人の女性相手だとこっちも少し背伸びして『大人の男』っぽく対応しちゃうよな。
「やぁ、ベラさん。遅れましたかね?」
「そうですね、予想よりは少し遅かったかもしれません」
「それは申し訳ない。謝罪も兼ねて、今度一緒に食事などどうでしょう?」
「……以前にも申し上げましたが、私を誘うなら身辺の整理をつけてからになさってください」
「いやぁ、騎士なので常に身辺整理はしているつもりなのですが」
「そうではありません」
やれやれと小さく首を横に振るベラさんだった。そんな姿も美人さんだ。
「うわぁ」
「うわぁ」
なぜか恐れるように身を寄せ合うフレズとラタトスク。
「なるほど、シャルロットさんたちを連れてこなかったのは……」
「こんなところで浮気をするためでしたか……」
「しかもメイド相手」
「浮気の定番ですね」
散々な言われ方だった。別に女性を食事に誘うくらいならいいじゃねーか。というかお前ら意外と仲いいな?
じっとーっとした目を向けてくるラタトスク。
「……女性を、とおっしゃいますが、シャルロットさんたちはお誘いになっていませんよね?」
まるで俺たちの今までを知っているかのような物言いだった。
シャルロットたちはなぁ、追放されたばかりでそれどころじゃないし、そもそもまだ未成年だしなぁ。いやこっちの世界では(ミラ以外)成人しているが、前の世界だとまだ学生でもおかしくない年齢だし……。
というか。
婚約破棄されたばかりの女性を口説くの、それはそれでどうなんだ?
「色々言い訳していますが、ただの年上好きでは?」
「ボクも狙われちゃいますかねー」
寝言をほざくちんちくりんだった。
「ぼ、ボクだってその気になればボンキュッボンになれるんですけど!?」
ボンキュッボンって。
そもそもそれ、見た目を誤魔化しているだけじゃねぇか。重要なのは中身だ中身。知的で落ち着いた大人の女性。ラタトスク君は少しでも一致するところがあるのかね?
「ぐっはっ」
心当たりが皆無だったのか胸を押さえながら床に膝を突くラタトスクだった。おもしれーリス。
と、そんな俺たちのやり取りを冷たい目で見つめるベラさんだった。
「また女を増やして……身辺整理どころか散らかしてばかり……」
なんだか好感度が急降下している気がするぞー?
「しかも、そちらの女性は本物のメイドではありませんね? 一般人にメイド服を着せて楽しむとは……この男は……」
もう俺の好感度、マイナスになってない?




