おもしれーリス
「はー、面倒くさいことになったなぁ……」
第一騎士団の連中から逃げながら、俺は深々とため息をつくのだった。やっぱりシルシュに頼んで直接王城に転移した方が良かったよな。
そんな俺の横を走りながらけらけらと笑うラタトスク。
「いやー今代の真王様はトラブルを引き寄せる体質のようで――ふぁあい!?」
剣を抜き、トラブルの主原因の首を横薙ぎにする俺だった。
慌てて剣を避けたラタトスクは盛大にすっころんでいたが、すぐに復活して俺の隣に追いついてきた。
「ちょっと!? いきなり首を刎ねようとしないでくださいよ!」
「裏切り者は処分しておかないとな」
「悪役!」
「平然と情報を売り渡して罠に嵌めるようなアホに言われたくねぇよ」
「アホぉ!? だから裏切ってませんよ! ちょっと情報を横流ししただけで――そぉい!?」
今度はフレズが腕を振るい、ラタトスクの首を刎ねようとした。まぁ紙一重で避けられてしまったんだが。
空振りとなったフレズの腕だが、どういう理屈か切れ味はあるようで壁に横一文字の切り込みができていた。
「あなたたち! ボクの首を何だと思っているんです!?」
「ちょうど刎ねやすい高さにあるなー、っと」
「首を落とせばさすがに死ぬでしょうねー、っと」
「蛮族どもめ!」
むきー! っと両手を振り上げるラタトスクだった。おもしれー女。
しかし面白いだけではなく、やはりかなりの腕前であるようだ。俺の剣を二度も避け、完全に不意打ちだったフレズの攻撃までも回避するとは……。
うーん、今使っているのは予備の剣なんだが、両手剣だからな。日本刀のように抜刀術でスパーンとはできないんだよなぁ。
今度の剣は日本刀みたいな曲刀でもいいかもしれないな。そんなことを考えつつ、一応ラタトスクの言い分を聞いてやることにする。
「で? なんで第一騎士団に情報を流したんだ?」
「はい! 先代の真王様はとにかく優しくて、敵であろうが殺すのを拒否してしまうような御方でした!」
「ほー」
「まぁその優しさが原因で死んでしまったので、今度の真王様はその辺が大丈夫かなーっと試してみたわけなんですよ! もしも『器』がないなら被害が少ないうちに死んでもらった方がいいですし!」
「あー……」
試されたこっちとしては迷惑な話だが、ラタトスクの言い分も理解できなくもない。ほぼ一般人が死ぬのと王(権力者)が死ぬのでは影響が違いすぎるのだ。
「そういうことなら、まぁ……」
「ご理解いただけたようで何よりです! それにやっぱり簡単に死なれるような真王だとこっちがつまらない――ぎゃあぁあ!?」
今度はさっきより少し早めに剣を振るうと、ラタトスクの首の薄皮一枚斬れたようだった。
「ほ、本気で斬りかかりましたね! この鬼畜! 魔王! 悪役顔!」
「本気じゃねぇよ、ちょっと早くしただけだ」
「……それでこのボクに傷を負わせるとは……おもしれー男……」
なんか強者みたいな物言いをするラタトスクだった。でもなぁ、見た目が『ちんちくりん』なんだよなぁ。これでもっとスタイル抜群なおねーさんだったら似合っているんだが。
「……なぁんか、ケンカ売ってません? 売ってますよね?」
圧をかけてくるラタトスクは無視。
「――よし、そろそろか」
目的の場所に近づいた俺は、壁を走って屋根の上へと登った。
「サラッと人外みたいなことしないでもらえません!?」
ラタトスクがツッコミを入れている間に、フレズは俺を追って跳躍、屋根の上に登ってみせた。何とも身軽な動き。さすが正体が鷲なだけはあるぜ。
「お、置いて行かないでくださいよー!」
嘆き声を上げながらも壁を走って俺たちの元へやって来るラタトスクだった。ま、リスだしな。
「フレズさんに比べてボクに対する評価が雑じゃありません!?」
「日頃の行いだな」
「じゃあしょうがないですね!」
自覚はあるのかムキーっと頭をかきむしるラタトスクだった。おもしれーリス。




