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【受賞・書籍化】悪役騎士、俺。 ~悪役令嬢を助けたら、なぜか国を建てることになった件~  作者: 九條葉月


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閑話 苦労人(自業自得)



 第一騎士団団長、ブリッシュは苦悶の日々を送っていた。


 事の発端は、国王陛下が騎士団の縮小を検討し始めたこと。もしも騎士の数を削減するとなれば、まずは近年活躍の場がない第一騎士団がやり玉に挙げられるのは確実だったのだ。


 ――元勇者・近衛騎士団長ライラがいれば他の戦力など不要。


 貴族の間でもそんな声は根強く、騎士団の縮小は必至とすら言えた。


 何を愚かな、とブリッシュは憤る。人一人に国防を任せるなどあってはならないし、そもそもライラは根無し草の元勇者だ。愛国心など期待できないし、国のために最後まで戦ってくれるはずがない。


 騎士団縮小に賛成する貴族共も、結局は王権の弱体化を目指しているだけなのだ。それが分からぬ国王に、もはや往時のキレはない。


 だからこそ。

 ブリッシュは、騎士団の増強を掲げる王太子カルスに賭けたのだ。

 ライラに頼り切ることを危険だと公言する彼ならば、ライラの存在を前提とした国防計画を立てるはずがないからと。どうせ『次』はカルスなのだから、それが少し早くなるだけだと。


 しかし、その判断は失敗だった。

 なんとカルスは、早々にライラをクビにしてしまったのだ。


 何をしているんだこのバカ、と思ったブリッシュは悪くない。いや行動は完全に悪なのだが、同情の余地くらいはあるだろう。


 ライラがいなければ、国防計画を最初から練り直さなければならない。ブリッシュとしては第一騎士団の増強をしつつ、少しずつライラに頼らない体制に移行していく予定だったのだが……。それは全て狂い、防衛力は急激に弱体化した。


 そんな自滅を神聖アルベニア帝国は即座に察知。王女ソフィーを差し出すよう要求してきた。


 無論、我が国にそれを跳ね返す力はない。


「なんということだ……」


 今からでも失策を認め、カルスを切り捨てるか?


 ……いや、一度裏切った騎士を信用する者がいるはずがない。ブリッシュを含めた第一騎士団は処断されるだろう。それこそ、見せしめとして一族郎党皆殺しになるはず。貴族も、民衆も、その『娯楽』を楽しむことだろう。


 せめてもの救いはあの王太子(アホ)が政治の細かいことに興味を示さず、政策の大部分は議会によって決定されていることか。むしろ切れ者である国王に引っかき回されずに済んでいるので、以前より円滑に進んでいる部分もあるという。


 このままあの女(アリス)に骨抜きにされ、余計なことをしないお飾りの王になってくれれば……。


 そう願うブリッシュだが、さらなる問題が彼の元にもたらされるようになる。

 第一騎士団の団員が、王城の中で狼藉を働いているというのだ。


 元々第一騎士団は下級貴族の息子や平民で構成されている。だからこそ王城での礼儀作法など知っているはずもなかったのだが……。最近では調子に乗っているのか、「自分たちが守ってやっているんだぞ」という自負が芽生えたのか、狼藉の数が増えているという。


 見せしめとして平民の騎士は何人か処断したが、(下級とはいえ)貴族の子息となるとそう簡単に罰することはできない。しかも王太子がやらかし続けている今、貴族への対応は細心の注意を払わなければならないのだ。


 そして。

 今日この日。

 ブリッシュの胃を破壊する報告が舞い込み続けていた。


「団長! ダルの部隊は壊滅です!」

「アークは王都を西に向かっている模様!」

「いや! 東に進路を変えたとも!」

「追跡していたカルックもやられました!」

「すぐに本隊を動かしましょう!」

「ダルたちの仇討ちです!」


「――黙れぇい! そう簡単にいくか! 馬鹿者共が!」


 団長室に殺到していた騎士たちを一喝し、追い出してからブリッシュは力なく椅子の背もたれに体重を預けた。


 ――アーク・ガルフォード。

 いくら王都で二番目の腕前とはいえ、たった一人で王都に潜入し、第一騎士団を相手にすることはあるまい。


 ならば、師匠であるライラもいるだろう。


 おそらくは『軍師』であるラックもいるはず。


(……アークは陽動で、ライラが本命か。ラックならば何を狙う? 何が目的でライラとアークを動かした?)


 可能性として高いのは王太子の暗殺。あるいは国王の奪還か。どちらにせよライラとの戦いは覚悟しなければならないだろう。


 常人ではライラに対抗するのは難しい。

 だが、ブリッシュとて愚かではない。万が一のことを想定し、対ライラを想定した連携訓練は第一騎士団に課してある。あとはブリッシュ自身も出陣すれば、何とかライラを食い止めることはできるはずだ。


(そう考えればアークとライラが別行動しているのは好都合か。あとは第一騎士団をどこに集結させるか、だが)


 王太子のいる本宮と、国王が軟禁されている別宮は同じ王城の敷地内にあるが、それなりに距離が離れている。ライラが強襲し目的を達成しようとしたとき、本宮から別宮に駆けつける、あるいは別宮から本宮に駆けつけていては間に合わないだろう。


 敵の主目的を決め、待ち構える。

 本宮か、別宮か……。


(ここは目標達成の困難さで選ぶべきか)


 王太子暗殺の場合は目的を達成したあと、即座に撤退することができる。

 しかし、国王奪還は国王を確保したあと安全に王宮から脱出させなければならない。困難さで言えばこちらが圧倒的に上。


(アークが第一騎士団を引き付けるのも限界があろう。ここは即座に解決できる王太子暗殺を狙うはず)


 そう結論づけたブリッシュは副団長を呼び出した。


「今アークを追跡している団員は、そのままアークを追わせろ。むしろ本宮に近づけさせるな。他の団員はすぐに本宮へ集結。王太子殿下の護衛を行う。――第一種戦闘装備だ。抜かるなよ?」


「ははっ!」



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