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【受賞・書籍化】悪役騎士、俺。 ~悪役令嬢を助けたら、なぜか国を建てることになった件~  作者: 九條葉月


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どちらが悪役なのやら


 驚くほどあっさりと。

 俺たちはダンジョンの中からどこかの室内に転移したようだった。


 一応メンバーを確認。


 俺、シルシュ、フレズ、そしてラタトスク。


 見事に人外しかいねぇなぁ……。


 せめてラックくらい連れてくるべきだったかと思うが、あいつは荒事がそれほど得意じゃないからな。万が一のことが考えられる以上、置いてくるべきだろう。


 あっちには師匠やレディ、そしてキングゴブリンがいるから滅多なことは起こらないというか、普通に王都を攻め落とせる戦力だ。


 まぁそれを言い出したらこっちにもシルシュがいるからな。王都だって落とせるだろう。むしろ王都の防衛力の無さを心配するべきだな。


 と、俺としては余裕たっぷりだったのだが。


『む? 面白そうなのがいるな? ちょっと行ってくるか』


 すたすたと。

 拠点から出て行ってしまうシルシュだった。最大戦力、早々の離脱である。


 というかメイド服を着ての単独行動は――まぁ、いいか。俺にアイツは止められん。


 改めて室内を見渡してみる。


 ラタトスクいわく王都での拠点らしいが、普通の家にしか見えないな。一つの部屋に玄関、台所が付いている形式。奥の部屋にあるのはたぶん寝室だろう。寝室別なのはさすが王都の物件って感じだな。


 じゃ、とりあえず王城に忍び込むか。


 俺が早速行動に移そうとすると――


「――ははっ! 情報通りだ! 見つけたぞアーク・ガルフォード!」


 ドアを蹴破って室内に入ってきたのは――第一騎士団の紋章を付けた男。


 どっかで見たことがある気がするが……ま、考えても無駄か。俺は野郎の顔なんぞ覚えん。クルスみたいに仕事上の付き合いがあるならともかく。


 ぞろぞろと。

 男の後に続いて5人の男が入ってくる。拠点は少し広めの家なので狭くはないが、圧迫感はあるな。


 ――情報通り。

 そして、タイミング良く拠点に踏み込んできたとなると……。


「……リス子、お前情報を売ったな?」


「リス子ぉ!?」


「お前なんぞリス子で十分だ」


「ひどい! 他の女性陣との扱いの差が違いすぎます!」


「そりゃ情報売るような(やから)と同じ扱いするはずがないだろうが」


「情報を売ったことを前提にするの止めてもらえません!?」


「違うのか?」


「違います! 売ってません! こちらの都合がいいように流しただけで――みぎゃあぁあああ!?」


 リス子にアイアンクローする俺と、コブラツイストを掛けるフレズだった。この世界にもコブラツイストってあるんだなー。


「神であれば異なる世界の情報を得ることもできますから」


 しれっと答えるフレズだった。そういやシルシュも読み取っていたな。


 と、いつものやり取りをしていると、


「お、お前ら! 俺たちを無視するな!」


 第一騎士団の男が顔を真っ赤にして怒り狂っていた。短気だなぁ。


 この短気さとキンキン声には覚えがある気がする……。たしか第一騎士団の部隊長、ダルだったか?


 そんなダルはビシッと俺を指差してきた。


「アーク! 貴様は追放された罪人共を匿っているらしいな! 詰め所で話を聞かせてもらおうか!」


「罪人だぁ?」


 何のことだと思った俺だが、シャルロットたちのことかと理解する。


「……お前らさぁ、捜査も裁判もなしに追放されたご令嬢を罪人扱いとか……」


「はっ! 戯言を! 王太子殿下が有罪とおっしゃったのだ! ならば有罪に決まっているだろうが!」


「……話にならんな」


 国王による独裁ならそれでもいいんだろうが、うちの国にはちゃんと議会があり、法がある。それを無視することなど、たとえ王であろうとも許されることではない。


 議会を無視すれば、議会を構成する貴族たちが反旗を翻すだろう。

 法を無視すれば、いずれは革命へと繋がるだろう。そもそも王の主権すらも憲法の下で保証されているのだから。


 ……ま、どうでもいいがな。

 あの王太子(アホ)が名君になろうが、暗君になろうが、知ったことではない。


 シャルロット。メイス。ミラ。そしてエリザベス嬢。彼女たちに冤罪を押しつけ、追放した以上、アイツは俺の『敵』だ。


 そして第一騎士団(こいつら)はそんな(アホ)に付き従っているわけだ。


 無駄だろうが一応説得はしてやる心優しい俺。


「お前らよぉ、騎士になったとき、国王陛下に剣を捧げただろう? 剣と騎士道精神に懸けて国王陛下をお守りすると誓っただろう? なのに、なんだその体たらくは? アホに付き従って政変ごっことは……何をしているのか分かっているのか?」


「はっ! 偉そうに! 王太子殿下が国王陛下になられれば何の問題もない! 我らはあの御方と共に新しい国を作るのだ!」


「……はぁ……」


 こいつらは騎士を何だと思っているのやら。


 たとえば。

 ラックは騎士道を捨て、エリザベス嬢を守ると誓った。本来であれば――騎士であれば許されない行為だ。


 だが、ラックはそれをした。

 国と戦う(・・・・)決意までして、エリザベス嬢を守ると誓ったのだ。


 そのくらいの覚悟をするなら、俺だって納得するし、応援する。


 だが、こいつらはダメだ。

 自分のことしか考えてない。

 国だなんだと偉そうに叫んでいるが、結局は勝ち馬に乗りたいだけだ。


 そんな馬鹿共の代表格・ダルが下卑た笑みを浮かべる。


「アーク、抵抗してもいいんだぜ? むしろ抵抗してくれた方が遠慮なくぶち殺せるってもんだ。お前には訓練の時に散々な目に遭わされたからな、今度はこっちの番だ」


 なぁんか。大人しく投降しても痛い目に遭わされる流れだな、これ。


 ダルが腰の剣を抜く。

 従っていた騎士たちも次々に剣に手を掛けた。


 あーあ。

 抜いちゃったかーっとため息をつく俺。


「……お前ら、理解しているか?」


「は? なにをだ?」


「――真剣を抜いた以上、もはや『訓練』じゃないぜ?」


「なにを――」


 偉そうに、とでも言おうとしたのだろう。


 しかしダルが口を動かすのを待たず、俺はダルを切り捨てていた。


 腰から肩にかけての逆袈裟斬り。

 切り口から内臓が飛び出し、吹き出した鮮血が壁と天井を真っ赤に染める。


 どうやらダルは断末魔の声すら上げられずに絶命したようだ。まるで修行が足りないが、まぁ死人相手に説教してもしょうがないか。


「な、」

「お前っ!」

「同じ騎士を!?」


 復讐に怒り狂うのでもなく腰が引けてしまっている残りの騎士たち。

 そんな彼らに俺は血糊のこびりついた剣を向けた。


「おいおい第一騎士団(戦争屋)の諸君。人殺しがキミたちの仕事だろう? この程度でビビってどうするんだね?」


「――アーク!」

「貴様! 同じ王国の騎士を!」


 残った五人のうち二人が殺意を剥き出しにするが、他の三人は剣を収め、逃げ出そうとする。


 だが、扉は開かなかった。


 おそらくはラタトスクが何かしたのだろう。魔法か、あるいは拠点自体に仕掛けがしてあるのか。


 まぁ、どうでもいい。

 今必要なのは『断罪』だ。


「罪状、騎士による反逆罪。不敬罪も上乗せだな。――安心しろ。どう考えても極刑。一族郎党皆殺しだからな」





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