神剣
「す、すぐに救出に向かわないと! ――ぐえ!?」
駆け出そうとするクルスの服の襟を掴んで止める俺。盛大に首が絞まったみたいだが、まぁ死にはしないので問題なしだ。
「まぁ待てクルス。国と国との結婚なんざそう簡単に話が纏まるものでもないだろう?」
たしか国王陛下の妹さんは2年くらい掛かったはずだ。
「あの王太子なら深く考えずに決めてしまいます!」
「…………。……まぁ、そうかもな」
「なら!」
「落ち着けって。こういう言い方はしたくないが、お前さんが行ってもどうにもならないって。使い切った魔力、まだ回復してないだろう?」
さらに言えば魔力が満タンの状態でもどうにもならんだろう。元々の強さはもちろん、実戦経験がなさ過ぎる。
近衛騎士団員であれば訓練での魔物討伐をしたり『短期派遣』という形で戦場を経験したりしているのだが……。
自分の状態はクルス自身もよく分かっているようだ。
「それは、そうですが……。しかし別宮に潜入して殿下を救出するくらいはできます!」
「無茶するなって。……分かった分かった。俺が行ってやるから、ここで大人しくしてろって」
掴んだままだったクルスの首根っこを振り回し、レディに向けて投げ飛ばす。
「ぐえぇええ!?」
「おっと」
さすが我が妹、さして慌てることなくクルスの身体を抱き留めた。
「レディ。すまんがクルスの引き留めと、女性陣の護衛を頼まれてくれ」
「うん、クルス君と公然とイチャイチャできるのだから構わないけど……。ま~た変なことに巻き込まれるのかいお兄様は?」
「ま、今回ばかりは仕方ないさ」
「その『今回ばかり』は何回目なのやら」
やれやれと肩をすくめるレディだった。何の罪もないのに巻き込まれまくるお兄様を同情しているに違いない。
「シャルロットたちはお留守番だな」
「えー」
いやなんで不満そうなんだよ? 今さら王都が恋しくなったか? ……いや、家族の中でもまともだという妹さんが心配なのか?
しかし、いくら何でも追放されたばかりのシャルロットたちを連れ回すわけにもいかない。俺なら「魔の森で負傷して帰還に時間が掛かった」とでも言い訳できるが……。
……それに。
もはや王都は敵地と言っても過言ではない。
場合によっては人を斬らなきゃならない場面もあるかもしれないからな。そういうものから隔離されて育てられたお嬢様方に流血沙汰を見せるのは酷というものだろう。
ぷっくー。っと、頬を膨らませるシャルロット。おもしれー女。
「なんだぁ、せっかくアーク君のために新しい剣を準備しようと思ったのに」
「新しい剣?」
「うん、そう。素材は集めたからね。あとは王都にいる伝説の鍛冶職人に頼めばできると思うんだよ」
素材に、伝説の鍛冶職人? なんだかいきなりゲームっぽいな? ……いやここは一応ゲームの世界で、シャルロットにもゲーム知識があるからな。何らかの知識はあるのかもしれない。
ちなみに俺はシナリオばかりでゲーム部分にはノータッチだったので、そういう『〇〇と□□という素材を集めて△△を作る!』みたいなものには詳しくないのだ。
と、シャルロットの発言にリス子――じゃなくてラタトスクが興味を持ったみたいだ。
「ちなみにですが、どのような素材で?」
「うん、これだね」
シャルロットが空間収納から以前討伐した不死身鳥の尾羽(肉付き)を取り出した。
「おお! これは!」
「へぇ? 知っているのかいラタトスク君?」
「もちろん! これでも情報屋ですからね! 雄鶏ヴィゾーヴニルの尾羽と肉! これがあれば作れるでしょう! ――炎の神剣・レバンティンを!」




