だって師匠だしなぁ・・・
「なんか怖いこと考えてないっすか?」
「気のせいだ」
「……魔王だ。真王じゃなくて魔王だ……」
「?」
魔王じゃなくて魔王? 言葉遊びか?
「しかし、ずいぶんと早いじゃないか。情報収集は諦めて帰って来たか?」
「まさか! すでに仕込みは色々やっていますからね! あとは確認作業だけで済むんですよ!」
「仕込みって」
普通に考えれば王都の情報屋との協力体制構築とかだろうが……コイツの場合、なぁんか暗躍してそうなんだよな。俺の直感からして。
「……失礼なこと考えてないっすか?」
「事実っぽいことしか考えてないなぁ」
「いけしゃあしゃあと……」
こっちの世界にも『いけしゃあしゃあと』なんて言葉があるのか?
「ま、とりあえず王都の状況と、ソフィー――王女殿下についての報告を聞こうか」
「へっへっへっ、報酬ははずんでくださいね」
わざとらしく揉み手するラタトスクだった。こっちの世界もゴマをするときはこんな感じなのか?
王都の状況と、ソフィーについて。内容が内容なのでクルスとガルさんも近寄ってきた。
「まず王都の状況ですが、近衛騎士団は王城から閉め出され、反抗的な人間は宿舎に軟禁されているようですね」
「ほぉ」
近衛騎士なら陛下の危機に動けよと思わなくもないが……。副団長が何かやっているんだっけ? それに陛下の軟禁場所が分からなければ動きようもないってところか。
その辺は師匠からも話を聞いているし、ガルさんが何も言わないところを見ると、彼の持っている情報とも一致しているみたいだ。
「王城は現在第一騎士団が警護の任務に当たっていますが……。王宮に勤める人間からの評判は悪いですね」
「そりゃそうだ」
第一騎士団の目的はあくまで対外戦争。構成員は下級貴族や平民。王宮での礼儀作法なんてほとんどの人間が習っていないだろう。しかもクーデターだものな。
と、俺は職務の違いから来るものが原因だと思っていたのだが。
「王宮の備品は勝手に横領しますし、女官やメイドを無理やり口説いたりして……。今の王城、かなーり荒れているみたいですね」
「おいおい」
天下の王宮で何をやっているんだあいつらは? そりゃあ仕事が仕事だから荒れている部分があるにはあったが……。王太子に取り入ったせいでアホが移ったか?
「…………」
クルスやガルさんに視線を向けると、ちょっと呆れた様子で首肯した。嘘はついていないらしい。
「そしてここからが重要情報なのですが!」
存分にもったいぶってから、ラタトスクはその事態を口にした。
「王女ソフィーを神聖アルベニア帝国に差し出して、ご機嫌取りをしようとしているみたいですね」
「はぁ?」
なんでそんなことに? あれだけ優秀なソフィーの嫁入りは国の重要事項だろうが。いくら神聖アルベニア帝国が強国だからって……正直、もったいなさすぎる相手だ。
「なんでも神聖アルベニア帝国は近衛騎士団長ライラがレイナイン連合王国との会戦に乱入し、そのせいでレイナイン連合王国を滅ぼせなかったことを恨んでいるのだとか。で、ご機嫌取りに王女をと」
「はぁ……?」
何でそんなことになっているんだよ?
俺が師匠に視線を向けると、師匠は「えー、そんなことしたかな……?」みたいに首をかしげていた。
……なるほど、こりゃどっかでやらかしたな。
確信する俺だった。




