ジャイ〇ニズム
『――うーまーいーぞー!』
できたての新米を食べ、カッと目を見開くシルシュだった。前世のテンプレとしては感動で巨大化するところだが、やらかさなくて良かった良かった。シルシュならマジで巨大化(ドラゴン化)できるからな。
『うむ! ゴブリンたちよ! 米を収穫したら我に献上するがいい!』
『は、はい! もちろんでございます!』
ビシッとキングゴブリンを指差すシルシュと、へへーっとばかりに頭を下げるキングだった。
「……食うにも困っている連中から食物を強奪しようとするな」
思わず。ついつい。シルシュの頭に空手チョップを叩き込んでしまう俺だった。もちろん『ぺしん』程度の勢いだがな。
俺とシルシュの仲はそこそこ進展しているらしく、人間に頭を叩かれても気にした様子はなかった。
『じゃが美味いぞ?』
「美味いものは俺のもの、ってか?」
なんというジャイ〇ニズムだろうか。いやドラゴンなのだから当然の思考なのか?
「シルシュの分は俺が育ててやるから」
というか自分で『パチン』と育ててしまえばいいだけなのでは? あれか? 人の育てたものの方が美味いのか?
『うむうむ、夫が手ずから育てた穀物を食うのも趣があっていいのぉ……』
ドラゴンの思考、よく分からない。
「……まったく駄竜が。私のアークを『夫』扱いとはいい度胸だ」
と、割り込んできたのは師匠。いつ俺が師匠のものに? ……弟子は師匠のものって感じですか? なんというジャ〇アニズム。
『あ゛?』
「あ゛?」
シルシュと師匠が一触即発の雰囲気になったので、距離を取る。まぁこの階層は広いから多少地面が抉れても平気だろう。むしろ溜め池として活用できるのでは?
俺の背後で繰り広げられる神話級の戦いにガクガクと震えるゴブリンたち。そんな彼らに俺はなるべく優しい声を掛けた。
「とりあえず、お前さんたちにはここに田んぼを作って欲しいんだが」
『へ、へい。承知しました。ドラゴン様への献上分は9割でよろしいでしょうか?』
「よろしくない、よろしくない。いらんいらん。9割持って行くってどんな鬼畜だよ」
『しかしドラゴン様ですし……』
ドラゴンってそんなに欲深いの? ……知り合ったばかりのゴブリンに献上品を要求していたな。欲深い欲深い。
「さーてあとは水源か……」
ステータス画面を起動し、確認。どうやらダンジョンはD.P.(ダンジョンポイント)を消費して改装できるらしい。
D.P.を一番多く稼げるのはやはり侵入者を倒して死体を吸収すること。これはまぁ順当に行けば冒険者だな。しかし魔の森に冒険者が来るはずもないのでこれは使えないと。
次に多いのが装備の解体か。これも冒険者が来ないと無理だろう。
最後の一つ。稼ぎこそ微量だが、生物がダンジョン内に留まることでD.P.を稼げるらしい。というか生物がダンジョンにいるだけでいいってどういう理屈だよ?
まぁしかしステータス画面の右上にあるD.P.の数字は微増しているので、俺たちがいることでD.P.はちゃんと稼げているらしい。
D.P.を使ってできることで直近必要そうなのは……水源、水路、田んぼそのものを作ってしまうことか。
水源は絶対必要。
水路は……師匠の剣撃で地面に真っ直ぐな溝ができているし、当面はアレを使えばいいんじゃないだろうか?
田んぼは……そこまで作っていてはとてもではないがD.P.が足りないな。それに全部俺が準備するのでは『自分たちで開拓した、自分たちの土地だ!』という意識が薄れるだろう。ここは水源を作り、水路(剣撃跡)と繋げるまでで――
「――――」
腰の剣を引き抜き、振り向きつつ背後を薙ぎ払う。
「ちょわぁい!?」
素っ頓狂な声を上げて地面に転がったのは自称情報屋のリス子・ラタトスクだった。
「おう、吹聴屋。ずいぶんと早いお帰りじゃないか」
「そ、そういう真王様もずいぶんとお速い剣速で……。まさかボクが避けるだけで精一杯だとは……」
引きつった笑いを浮かべるラタトスクだった。まだまだ余裕そうだから、次はもうちょっと速くしても大丈夫だな。




