シルシュ・・・
もっと自重しろ。
そんな俺の願いも虚しく、シルシュはドンドンやらかしていく。
「ふむ、数が少ないのぉ。少し増やすか」
いや数が少ないって。どんだけ食うつもりなんだよ? 馬車の中には紙袋に入った米が5袋分は入っているんだぞ?
あ、もしかしてドラゴン形態のつもりで言っているのか? たしかにドラゴンの腹の足しにはならない量だが、今のシルシュは人間形態なんだぞ? ……いや、胃袋はドラゴンのままという可能性もあるか?
俺がそんなことを考えていると、シルシュは米の入った袋を破り、籾殻が付いたままの米を地面にばらまき始めてしまった。おーい、米を直接地面に撒くヤツがあるか!
即座にツッコミを入れようとした俺だが、シルシュの方が早かった。『パチン』と指を鳴らすなり、地面に撒いた籾殻から発芽。ぐんぐんと育ち始めたのだ。
「うわぁ」
「うわぁ」
「うわぁ」
三重奏を奏でたのはシャルロット、メイス、ミラ。
シャルロットとメイスは優秀な魔術師の証である『銀髪』だし、メイスは米に関する知識が豊富そう。そんな彼女たちからすれば、こうも簡単に米を定手始めたシルシュは信じがたい存在なのだろう。
「うわぁ、なんだろうね、あれ?」
「ん。おそらく聖魔法で時間を早めている。しかもあの植物とその周辺だけ器用に」
「植物魔法じゃなくて?」
「植物魔法でもあんな急速な成長は無理」
シャルロットとミラが魔法談義をして、
「いえ米というのはまず塩水に入れて選別、その後に水を吸わせ、一旦乾燥させてから育種箱に撒いて――」
まさかまさかの米の栽培方法まで知っているっぽいメイスだった。凄すぎない?
ちなみに俺もそういう系の知識を持っていたりする。創作において米作りって結構使う機会が多いからな。
しかしまぁ、メイスの方が詳しそうだし、ここは口をつぐんでおくか。
そんなことをしているうちに稲は生長しきったようだ。
『このあとはどうするのじゃ?』
「そうだなぁ。収穫して乾燥。そして脱穀だな」
『収穫と乾燥は何となく分かるが、脱穀とは?』
「実についている殻みたいなものを取り除くんだよ」
『ふむ。なるほど、つまり風の魔法で乾燥させつつ『脱穀』してしまえば――』
そんな一気にやろうとして大丈夫か? と心配していると――やらかした。
たぶん風魔法の力加減を間違えたのだろう。せっかく収穫した米は『ぶぁさぁ!』っと広範囲に蒔き散らかされてしまった。あーあ、誰が拾うんだよこれ?
俺がちょっと冷たい目を向けていると、シルシュがサッと視線を逸らした。コイツって意外と押しに弱いというか責められると弱いというか……。
「ああいう女が好み?」
俺をドS悪役騎士にするの止めてもらえませんかねミラ様?
それはともかく。地面に散らばった種籾はどうするのやら? 風魔法で一気に集めるか?
『……ふっ! 計算通りじゃな!』
なんかテンプレの負け惜しみを叫んでいた。
『風魔法で均等に地面へと撒かれた今こそ大量生産の時!』
人間、時には失敗したと認めるのが大事だと思うがなぁ。ドラゴンだとその辺の感覚が違うのか? まぁいかにもプライドは高そうではあるが。
『――収穫の時は来たれり!』
シルシュが右手を天に掲げると、その動きに合わせるように種籾から芽が『にょきっ』っと伸びた。(ドラゴン・ブレスによって)平地となった魔の森で、(ドラゴンがばらまいた)種籾が、(ドラゴンの力によって)一斉に芽吹く……。
しっかしまぁ、力業だなぁおい。




