( ; ロ)゜ ゜
米。米か。メイスが提案するのだから市場でも手に入りやすいのだろう。
「ガルさんとこの商会で米って売ってるっすか?」
「おう、諸事情で大量に仕入れたからな。なんなら馬車に積んで持ってきてあるぜ?」
「……ずいぶんと用意周到じゃないっすか?」
「そりゃお前、小麦よりは米の方が収穫量が多いし、育てる時期が違うから二毛作もできる。手っ取り早く兵糧を手に入れるならうってつけなのさ。もちろん小麦も持ってきているぜ?」
二毛作。
簡単に説明すれば一つの畑で秋までは米を育て、冬の間は小麦を育てるという方法だ。短期的に見れば同じ畑で二倍の収穫が期待できるのだが……結局は土の栄養もその分多く消費するからな。肥料やら何やらを考えなければならないのだ。
だが、ガルさんの言うとおり短期的に大量の兵糧を確保するならいい手だ。すぐに使う分は購入するとしても、一年先二年先は……。
……近々兵糧が必要になる自体があるとでも?
「なに企んでいるんですか?」
「おいおい、俺は何も企んじゃいねぇよ。あくまで仕事の依頼を受けただけだ」
「仕事ぉ?」
「おう。お前さんの妹とクルスをここまで運んできて。米と小麦を渡す。あとは緊急に兵糧が必要なら商会の方から融通してやれとも命令されたな」
「命令? ガルさんに命令できるとなると――」
「いるじゃねぇか。腹黒が」
「あぁ、腹黒ですか……」
ラックを遥かに超える腹黒というか暗黒というか。ま~たあの御方は何か企んでいるのかよ……。
まぁ、レディとクルスをこっちに寄越してくれなかったらあの村は全滅で、俺もキングゴブリンたちを保護しようとは思わなかっただろう。いやしかしいくら何でもそこまで考えているわけが……いやいやしかしあの御方ならなぁ。考え至っていても不思議じゃないか……?
というかあんだけ腹が黒いんだからこっちを巻き込まずに自分一人で解決しろよって話だよな。
なぁんであんな暗黒からソフィーみたいな純心真面目美少女が生まれたのか……。俺がわりと本気で疑問に思っていると、いつの間にか脇に寄ってきたシルシュが肘で俺を突いてきた。
『アークよ。その「米」というのは美味いのか?』
「うん? 食ったことないのか?」
『たぶんないな』
「ほー」
長生きしているんだからてっきり……いやしかし食文化が違えばそんなものか。たとえば人型になって街に降りてきても、食べられるのはパン食だろうしな。
じゃあ、ガルさんが持ってきたという米をちょっと分けてもらうとするか。そうなると馬車のところに行って……。
「あ」
そういえば、馬車ってあの村に置きっ放しじゃないのか? 転移魔法で人とゴブリンだけ魔の森に戻ってきてしまったし。
「あ」
たぶん俺と同じ考えに至ったのだろう。ガルさんもどこか間の抜けた声を漏らしていた。抜け目ないこの人にしては珍しいが、まぁゴブリンの襲来があったものな。忘れてたって仕方がないか。
「米を乗せた馬車はあの村に置きっ放しだから、またあとでな」
『我は今食いたいぞ?』
「んなワガママ言われたって……」
まぁ神代竜なんだからこのくらいワガママなのが普通なのか。なぁんて考えていると、シルシュはどこか遠くを見つめ始めた。ダンジョンの中なので方向感覚もまるでないが、話の流れからしてたぶんあの村を見ているんじゃないだろうか?
『――ふむ、これか』
シルシュが指を鳴らすと、俺のすぐ横に馬車が現れた。
たぶん転移魔法を使ったんだろうが……おそらく凄いことなのだと魔法に詳しくない俺でも分かる。なにせ千里眼みたいな力で遠く離れた場所に放置された馬車を見つけ、遠隔で転移魔法を発動。この場にまで移動させたのだ。
しかも本来は転移魔法が使えないというダンジョンの中に。馬車だけでなく、馬ごと。
どれほどヤバいかというと、ミラが(゜ロ゜)という顔をして、シャルロットが( ; ロ)゜ ゜と驚くくらいのことをやってのけたのだろう。米食いたさに。
神代竜なんだからある程度は仕方ないが……もうちょっと自重したらどうだ?




