さすメイス
まぁとにかく。王都まで行って情報収集するならラタトスクもしばらく帰ってこないだろう。というか、帰ってくる前にこっちが王都へ行くかもしれない。ソフィー――じゃなくて、王女殿下から話を聞かなきゃいけないからな。
というわけで、ラタトスクのことは一旦忘れ、今はキングゴブリンたちの案内を優先。水晶のところへ移動し、草原が広がっていた階層を目指す。
その道中。
「ラック様……。あのような怪しい存在を、本当に情報屋として雇うおつもりなのですか?」
常識人のエリザベス嬢が不安そうな声で質問した。
「ご安心を、エリザベス様。こちらにも考えがありますから」
「考え?」
「えぇ。こちらには直前まで王都にいたクルスやガルさんがいますからね。王都の状況であれば大体の見当は付きます。あのラタトスクとやらが持ってくる情報と、こちらの持っている情報をすり合わせ、あの少女が本当に『使える』人材かどうか確かめればいいのです」
「そのようなお心づもりで……」
キラキラとした目で感心するエリザベス嬢。恋は盲目というか、何というか。
ラックは相変わらず腹の黒いヤツだ。とは、空気を読んで言わないでおいてやる俺だった。またいつものようにラックとエリザベス嬢の間にイチャイチャした雰囲気が漂っているからな。
ラックは末永く爆発しねぇかなーと考えながら歩いていると、水晶のある場所に到着した。
今の俺たちはいつものメンバーに加えてキングゴブリンたちや、ガルさん、フレズたちまでいるのでかなりの大所帯だ。が、階層間の移動に人数制限はないのか問題なく転移することができた。
……これ、ダンジョンの入り口を好きな場所に作れるなら、各階層への入り口も自由に作れるんじゃないのかねぇ? そうすればわざわざ水晶のある場所まで移動しなくても良くなるし、あとで試してみるか。
『おお!』
『これが新天地っすか!』
『広いっすね!』
キングたちが感動に震えたり草の上に寝っ転がったりしている間。俺は色々な知識を持っていそうなメイスと相談をすることにした。
「まずは食糧の自給だな」
「そうですね。ゴブリンの食事量はそれほどではないとされていますが……キングさんはあの巨体なので多く食べるでしょう。それに、ゴブリンは多産ですからすぐに増えるはず。なるべく多くの農地を準備した方がいいかと」
「あー、そういや聞いたことがあるな」
ゴブリンたちはすぐに増えるので、巣を見つけ次第潰さないと爆発的に増加してしまうと。
まぁしかしダンジョンの中は広いし、多少増えても大丈夫じゃないだろうか? ゴブリンたちも野生の存在なのだから飢え死ぬほど増えはしないだろうし。
「開墾はゴブリンたちにやってもらうとして。何を育てるべきかね?」
「通常なら小麦ですが……アーク様がダンジョン内を好きなように改造できて、水源の確保ができるのなら『米』を栽培してもいいかもしれません」
「米?」
中世から近世風ファンタジーの世界観なのに、米があるの?
俺としては「ほんとに米なんてものがあるの?」という疑問だったのだが、メイスは「米って何?」という疑問だと勘違いしたらしい。
「米というのは主に南方で栽培されている穀物でして。原産は東の大陸とされていますね。栽培面積に対する収穫量では小麦を大きく上回る素晴らしい穀物なのですが……栽培のために大量の水を必要とするため、我が国ではほとんど栽培されていないようです」
「ほ、ほぉ、そんな穀物があるのか……」
貴族令嬢なのにそんなことまで知っているメイス、凄くね?




