ま~たおもしれー女か・・・
声からして若い女性。
だが、うちには見た目が若いシルシュがいるからな。声だけで年齢を判断するのは危険か。というか若い人間の女性が、魔の森のど真ん中にあるダンジョンにいるはずがないし。
「――灯火」
と、呪文を唱えたのはミラ。するとダンジョン内の少し先あたりに明かりが灯った。
魔法の光源で照らされたのは……若い女性の姿。
どことなく小動物っぽい雰囲気。髪の色は……明かりに照らされているので色味が違うかもしれないが、たぶん茶色とか亜麻色だと思う。
身長は低め。服装は庶民向けのシャツとズボン。どちらかというと少年っぽい装いだ。
なにやらいかにも『わくわく』といった風に身体を揺らしており、どことなく落ち着きのない子供を思わせるが……。俺は油断しない。
確かに身体は揺れているが、意識的にそう動いているのか規則性を感じさせるし、なにより揺れているというのに体重移動は完璧で、いつでも攻撃態勢に移れるだろう。いや態勢を取るまでもなく無拍子で襲いかかってきてもおかしくはない。
中々の強敵。
キングのような力はなさそうだが、速さとトリッキーさに極振りしている感じか。暗殺と奇襲に特化するなら鎧のような筋肉は必要ないからな。
と、只者ではなさそうな少女がどこか呆れた顔をこちらに向けてきた。
「……ここで油断していただけると、こちらとしてはやりやすいんすけどねぇ~?」
「なら、もうちょっと上手く演技をすることだな」
「いやそもそも『気配遮断』したボクに気づくのがバケモノというかなんというか……」
とうとう初対面の人間(?)からすらバケモノ扱いされてしまった。なんでだよ?
『――真王猊下、お気をつけください』
と、俺の前に出てきたのは巨大な鷲・フレズ。俺を守るように右の翼を広げている。
なんか行動がイケメンだな? 声は美人さんなのに。
というかお前さんまで魔王扱いするの? 魔王の尊称って『猊下』なの? 俺、宗教とか教祖みたいなことはしていないんだが……。
『このネズミは情報屋を気取ってあることないこと吹聴する輩ですので』
輩って。
本来の意味では仲間とか一族なんだが……ここではたぶん不良とかガラが悪いって意味で使われているんだろうな。
さすがに輩扱いは看過できないのか少女が抗議してくる。
「む! 失礼っすね! ないことは吹聴しませんよ! 事実を十倍にも二十倍にも膨らませるだけで!」
「……なるほど輩だな」
『輩でしょう?』
「輩じゃありません! あと、ネズミでもないですから! 栗鼠! 可愛い可愛いリスですから!」
「……ん?」
リス?
世界樹のあるダンジョン。フレズヴェルグ。そしてリスと来ると……。
「……ラタトスク?」
「げっ」
『おお!』
俺の呟きを聞き、少女が顔をしかめ、フレズが『さすが真王様!』とばかりに目を輝かせた。
ラタトスク。
世界樹に住んでいるというリスであり、世界樹の天辺にいるフレズヴェルグと、根を囓っているニーズヘッグの間を行き来して、お互いの会話を伝えているのだという。
とまぁ、それだけならただのメッセンジャーなのだが、問題は、あることないこと話を膨らませてフレズヴェルグとニーズヘッグのケンカをあおり立てているとされていることだ。
「輩じゃねぇか」
「だから、輩じゃないですって!」
ぷっくーっと。リスのように頬を膨らませるラタトスク。いや正真正銘のリスなのか。見た目は美少女だけどな。
「ですが、ボクの正体を知っているなら話は早いです!」
天真爛漫な笑みを浮かべながら、ラタトスクが右手を差し出してくる。
「真王様。――情報屋として、ボクを雇いませんか?」
「…………」
『…………』
思わず顔を見合わせる俺とフレズ。
今までの話の流れで、情報屋として自分を売り込んでくるとか……。神経図太すぎじゃね?
「……なんだ、またおもしれー女か」
『その一言で片付けてしまうのもどうかと思いますが』
意外とツッコミキャラなフレズであった。
※真王と魔王は誤字ではありません。




