何者
まぁシルシュの冗談は置いておくとして。
せっかくここまで来たのだから、このまま洞窟内の出入り口を使ってしまおう……と、思ったのだが。
「……入れないな」
『すみません』
建物の二階ほどの身長を誇るキングゴブリンでは、さすがに洞窟内部に入れないようだった。
「謝ることじゃないさ。デッカいことはいいことだ」
『そう言っていただけますと……』
しかし、ダンジョンの中に肝心のキングが入れないのでは意味がない。というわけで俺はキングが出入りできるほどの入り口を作ることにしたのだが……やり方が分からないな。
「シルシュ。キングのための出入り口を作りたいんだが、ダンジョンを作り替えるときはどうすればいいんだ?」
『うむ。それはもちろん「ステータスオープン!」と叫ぶのじゃよ』
「……なんでこの世界にそんな言葉が?」
ステータスオープンってアレだよな? 異世界転生もので一時期定番になったやつ。その言葉を叫ぶと目の前に液晶画面みたいなものが浮かび上がり、自分のステータスやら何やらを確認できるもの。
創作物の登場人物に叫ばせるならとにかく、自分でやるのは恥ずかしい。メッチャ恥ずかしい。
だが、ここで躊躇っていても話が進まないか。
「す、ステータスオープン!」
覚悟を決めた俺がその言葉を口にすると、眼前に半透明の液晶画面みたいなものが浮かび上がった。大きさは縦横30cmくらいだろうか?
『ちなみに「ステータスオープン」と言うのが恥ずかしいなら、心の中で口ずさむだけでも起動するぞ?』
「……だーかーらー、なんでお前さんはいちいち遅いんだよ……」
もはやわざとやっているんじゃないかと疑う俺だった。
「ったく……。まぁいいさ。ステータス画面は……なんとなくタブレットっぽいな。
こう、居酒屋でメニューを選ぶ感じ? 自分のステータスは……まぁ見ても面白味がないのでスルーして。『ダンジョン』という項目があったのでクリックしてみると、詳細な画面が表示された。
名無しのダンジョン。
レベル1。
ダンジョンマスター アーク・ガルフォード。
と、こんな感じの情報が書き込まれている。
ボタンというか別タブがあり、『ダンジョン改修』という項目があったのでクリック。説明書はないが感覚でやれそうだな。そのまま出入り口を作って――
と、そんな感じで操作していると、目の前の岩壁に穴が開いた。キングでも余裕で潜れる入り口だ。
その先に広がるのは、ダンジョンの内部っぽい洞窟。
「よし、とりあえず水晶があるところに移動するか。草原が広がる階層があったから――」
一歩。
踏み出そうとした俺は足を戻し、腰の剣に手を伸ばした。
――誰かいる。
しかも、かなり近く。出入り口を入ってすぐくらいの場所に。
気配からすれば視認できてもおかしくないのに、目の前に広がるのは薄暗い洞窟だけ。
視覚と、気配。
どちらを信じるかと問われれば、俺は気配を信じる。今までの経験からして、たとえ目には見えなくとも、誰かいるはずなのだ。
俺が警戒を解かずにしばらく洞窟を睨め付けていると――
「――いや、これは見事っすね。気配を消すのは得意なつもりだったんですけど」
軽い。
ひたすらに軽い調子の声が洞窟内に響き渡った。




