ダンジョンへ
まぁとにかく。心配性のクルスにはレディとイチャイチャして時間を潰してもらうとして。その間に諸々の話を進めてしまおう。
魔の森の中でも、シルシュのドラゴン・ブレスの爆発で木々が根こそぎ吹き飛ばされ、広場となった場所。そこに連れてこられたキングゴブリンたちは『なんと、魔の森にこんな開けた場所が……』『すげぇっすねドラゴンって……』『こっわ……』と驚いていた。
そんなキングに近づき、相談を持ちかける。
「さっき話したかもしれないが、お前さんたちにはダンジョンで生活をしてもらおうと思っているんだが……」
『御意に』
おぉ、まさかゴブリンの口から『御意に』なんて尊敬語が出てくるとは……。どっかのアホより知的じゃないのか?
あ、いや、自動翻訳のおかげでいい感じに翻訳されているだけの可能性も? いやしかし元々の発言内容がまともだからこそ『御意に』と翻訳されたのだろうし……。
おっと、今はそんなことを考えている時じゃないな。
「だが、よく考えたらゴブリンだからってダンジョンの中に押し込めるのは可哀想だよな」
『我々としては構いませんが……。人間の皆様とは文化も違うでしょうし』
なんか、まともすぎて泣けてくるな。どうしてあのアホたちは婚約破棄ドミノなんて……。
会話ができて、意思疎通ができる。うん、たとえ問題が起きても解決できるはずだ。
「まぁそう言うな。ここは広いから皆で暮らせる余裕もあるって。住むところは自分たちで作ってもらわないといけないがな」
『はぁ、王がそうおっしゃるのでしたら……』
大丈夫かなぁという顔をするキングだった。やはり知的だ。あのアホに比べて以下略。
「風雨を防ぐなら、家ができるまではダンジョンで寝泊まりする方がいいか……? ま、とにかく、ダンジョンの中に案内しよう」
キングたちを引き連れて岩山を登り、ダンジョンの入り口となっている洞窟へ。面白半分なのかシルシュたちも付いてきたのだが……。
『アークよ。おぬしはダンジョンマスターなのじゃから、わざわざ洞窟に来なくとも好きな場所にダンジョンの入り口を作れるのじゃぞ?』
そんなことをほざくシルシュだった。
ダンジョンの入り口を作るとか非常識にもほどがあるが……シルシュが言うのならそうなんだろう。
問題としては、
「な~んでそういうことを、登山する前に教えてくれないのかねぇお前さんは?」
『いや、アークにも何か考えがあるのかと』
「俺がそんなに色々と考えているわけねぇだろうが。ラックじゃあるまいし」
『それもどうなのじゃ?』
「そもそも頭を使うのが得意なら騎士じゃなくって商人にでもなるって」
まっ、教えてくれるのが遅いのはいつものことか。
ちなみに。
その『商人』を生業としているガルさんもなぜか登山に同行していた。一応商会長なんだからわざわざ登山なんてしなくてもいいだろうに。
「ガルさん。今度は何を企んでいるんですか?」
「そりゃもちろん、ダンジョンの中となれば貴重な素材が山のようにあるからな。しかもまだ冒険者が荒らしていないとなれば……」
ぐふふ、っと。奴隷でも売っていそうな顔をするガルさんだった。たぶん奴隷の販売はしていない……はず。いやこのオッサンなら裏で売りさばいていても不思議じゃないけどな。
「……坊主、またなんか失礼なことを考えてないか?」
「客観的に見た評価なら考えているっすけどね」
「ったく、口の減らないガキだ」
一代で商会を大きくしたガルさんからすれば、俺もまだまだひよっこらしい。
「しかし坊主。ダンジョンマスターとは興味深いじゃねぇか。どういうことだよ?」
「あー……。なんか、そこの美人さんからもらいました」
婚約指輪として。とは、話がややこしくなりそうだから黙っておく。そもそも冗談だろうしな。
「美人さんだぁ?」
訝しげな目で俺が指差した方――シルシュを見るガルさん。
「あぁ、まぁ確かにとんでもない美人だが……」
『ふっ、美人とは。事実とはいえ照れるのぉ。じゃが、若いの。いくら口説いたところで我はもうアークのものなのでな』
シルシュからすれば、ガルさんもひよっこでしかないらしい。
あと、シルシュが俺のものって何だ? むしろ俺がシルシュのものじゃないか?




