ソフィーはそういう女だ
俺の考えを伝えると、そこまでは思考が至っていなかったのかクルスは冷や汗を流しはじめた。
「いや、さすがにそこまでは……きっと……」
「だが、あの王女殿下が『自分を助けてもらう』という理由で一号案件を使うか?」
「…………」
思い当たる節があるのか黙ってしまうクルスだった。
そうそう。ソフィー――じゃなくて、王女殿下はどうにも自分を後回しにしがちと言うか、自分よりも国のことを考えてしまうというか……。
この世界において、民とは王や貴族から搾取される側だ。
しかし王女殿下は「民の血税のおかげで生活できている」、「だからこそ民のために行動しなければならない」と本気で思っているようだし、本気で行動しているからな。
今までの一号案件にしても、国宝級の宝石探索とか、大臣の不正の証拠を見つけろだとか、そういう「国のため」のものばかりだった。
この世界ではとにかく、前世ではまだまだ成人すらしていない年齢だからな。もうちょっとワガママを言ってもいいと思うんだが……。
そんな王女殿下が、はたして本当に「私を助けて!」と願うだろうか?
むしろあのアホに見切りを付けて、排除に動いたんじゃないか?
自分のことではなく、国のために。
国のためなら、実の兄でさえ。
誰よりも優しいくせに、誰よりも非情な決断を下せてしまう。
我らが王女殿下は、そういう人間じゃないのか?
「それは……その可能性もありますが……」
うーんうーんと悩み始めてしまうクルスだった。
いやまぁ散々思考をめぐらせておいて何だが、これはあくまでも仮定の話だからな。王女殿下が何を考えているかは、彼女に直接問いかけるしかない。
というわけで。
「とりあえず、ちょっと王女殿下に会って話を聞いてくるか」
それが一番手っ取り早いよな。
「……ちょっと、って……。殿下にお会いするなら、別宮まで潜入しなければなりませんが」
「簡単だろ?」
「簡単ではありません」
お前さん、それが出来ると見越して俺にこの話を持ってきたんじゃないのか?
「俺は近衛師団だから王城の詳細を知っているし、いま警備をしているのは何のノウハウもない第一騎士団の連中だぜ? むしろ潜入できない方がおかしくないか?」
「のうはう、というのが何かは分かりませんが……潜入できる方がおかしいのは確かですね」
「自分の職場なんだからできて当たり前だと思うんだがなぁ」
まぁ常識人のクルスのことだ。やる前から「無理です」と諦めている可能性も十分にある。だが、レディと付き合っていくならその辺も改善していかないと。
うちの妹は聡明で、優しくて、勇気もあるからな。そんなレディのお相手となればそれなりの男じゃなければならない。
王女殿下の護衛を通じて、クルスとも交流があったが……その関わりの中で判断するなら、クルスは悪くない男だ。
あとはちょっと鍛えてやればどこに出しても恥ずかしくない『良い男』になるだろう。ほんのちょっと鍛えれば。
「……その『ちょっと』で人が死にかねない」
大げさだなぁミラは。人間、意外としぶといものなんだぜ?
「……魔王」
なんでだよ?




