閑話 あーあ……
「くそっ! くそっ! くそっ!」
村の若者・ニレは怒りを抑えることができなかった。
なんでゴブリンたちを逃がしてしまうんだ?
なぜあの騎士は魔物を討伐しないんだ?
騎士というのは民を守るものじゃないのか? 俺はそういう風に教えられたというのに……。
あの騎士たちが帰ったあと。
村長からは再び殴られた。
幼なじみからは「余計なことをしないでよ!」となじられた。
他の村人たちも俺に白い目を向け、誰も近づいてこようとしない。
なんでだ?
なんでだよ?
俺は正しいことをしたじゃないか! あのゴブリンのせいで村にどれだけ被害が出たと思っているんだ!? どれだけのケガ人が出たと思っているんだ!? ケガが治るまで農作業はできないし、建物の修復で人手も割かれる! 今年の農作業はどうするんだ!?
「くそっ! くそっ! くそがっ!」
これも全部あの騎士が悪い。あんなに強いんだからそのままデカいゴブリンを倒してくれれば良かったんだ。なんで強い人間が戦わないんだ? 強いなら皆を助けてくれればいいじゃないか!
ひどい悪人面だった。
きっと心も悪党に違いない。
何よりも恐ろしいのが……魔物と会話をしていたことだ。
魔物と話ができるのなんて、人間じゃない。
あいつは、きっと――
「――お気づきになりましたか」
背後から不意に声がした。
聞き慣れた声だ。
いつからだったかは忘れたが、俺が困ったときはいつも助言をしてくれた女の声だ。
「キングゴブリンを圧倒する強さ。恐ろしい顔つき。あの男こそ魔王に違いありません」
そうだ。
あいつこそ魔王だ。
なら、どうすればいい?
どうすれば魔王を倒せるんだ?
「村の力では無理でしょう? ――ここは国の力を頼るしかありません。王都に向かい、窮状を訴えるのです。そうすれば騎士団を派遣してくれることでしょう」
そうだ。魔王相手なんだから国も騎士団を派遣してくれるはず。そのてがあったか! さすがだ。やはり頼りになる。本当にこの人は――
――この人の、名前は、なんだったっけ?
…………。
……いや、大した問題じゃないか。
「一刻も早く魔王を討伐しなければなりません。そうすれば、あなたは『英雄』となれるでしょう」
そうだ。
英雄だ。
とにかく、一刻も早く王都に向かわないと。そうして俺はこの村を救い、魔王を倒すきっかけとなった『英雄』になるんだ。
そうすれば、幼なじみも俺を見直すに違いない。




